伊藤: 障がい者スポーツが競技としてエリート化されたのは、世界的に見ても、近年のこと。一説では2008年北京パラリンピックからと言われています。今年のソチパラリンピックではロシア勢の強さが目立ちましたが、オリンピック同様に国策としてパラリンピック選手の強化に力を入れる国・地域が増えています。そのなかで、日本は20年東京パラリンピックの開催が決定し、果たして今後、どういう道を歩んでいくのかということが課題のひとつとなっています。

 

二宮: オリンピックでは、たとえ個人競技でも「チームJAPAN」として、さまざまな専門分野のスタッフが関わっていて、チームとしての強化が図られています。競泳などがその代表例でしょう。パラリンピックにおいても、チーム力が問われる時代となっているのではないでしょうか。 
櫻井: 私もそう思います。実際に久保恒造選手のサポートを行っていて、サポートチームの必要性をひしひしと感じました。日本のパラリンピック選手の現状は、たとえサポートするスタッフがいても、競技指導は監督やコーチ、トレーニングはフィジカルトレーナー、食事は管理栄養士、メンタルはメンタルコーチ......というふうに、それぞれ個々で行っている状態なんです。

 

伊藤: 選手とはそれぞれつながっていても、スタッフ同士が顔も知らないのでは、選手の一部分しか見ることはできませんよね。

櫻井: そうなんです。総合的に選手を見るためには、やはりチームをつくって、情報を共有し合うことが必要です。そうすればより効率良く、有効なトレーニングを行うことができます。

 

 「チームJAPAN」のシステム構築へ

伊藤: オリンピックでは、それが世界的に当たり前になっていると。

櫻井: そうですね。日本でもナショナルトレーニングセンターや国立スポーツ科学センターにスタッフが常駐していて、横のつながりを持ちながら選手の管理を行っています。でも、実はオリンピックにおいても、チームで強化し始めたのは1984年ロサンゼルス大会くらいからと言われていて、そんなに古い話ではないんです。

 

二宮: 日本では企業がアマチュアスポーツを支えてきたこともあって、なかなか他の企業チームのライバル選手と情報を共有するということが受け入れられなかった時代がありました。ところが、それでは世界に通用しなくなった。そこで「チームJAPAN」として「フォア・ザ・日の丸」という考えが浸透し始めたことで、横のつながりができるようになりました。

 

伊藤: パラリンピックにおいても、「ライバル」ではなく、「同じチームJAPANの仲間として、競い合っていこう」という考えが広まっていくといいですね。そういう意味では、東京パラリンピックがいい目標になるのではないでしょうか。

櫻井: 東京パラリンピックはいい契機になると思いますね。残り6年で、チーム強化のできる仕組みをつくることは決して不可能ではありません。ぜひ、私も力を尽くしたいと思います。

 

(おわり)

 
櫻井智野風(さくらい・とものぶ)プロフィール>
神奈川県生まれ。1991年、横浜国立大学大学院教育学研究科保健体育学専攻修了。1992年より東京都立大学理学部体育学教室助手、2006年より東京農業大学生物産業学部健康科学研究室准教授を経て、2014年4月より桐蔭横浜大学スポーツ健康政策学部スポーツテクノロジー学科教授となる。『乳酸をどう活かすか』(杏林出版)、『ランニングのかがく』(秀和システム)など著書多数。日本陸上競技連盟普及育成部委員。日本トレーニング科学会理事。


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