伊藤: 日立ソリューションズでは、今年4月に車椅子陸上部が設立されることが発表されました。これは久保さんからのリクエストだったそうですね。

久保: はい。冬季はソチで2度目となりますが、もともと目指していた夏季パラリンピックは、まだ一度も出場していません。北京とロンドンでは、ゼロコンマの差で代表を逃していて、車椅子陸上選手としては不完全燃焼のままなんです。だから、どうしても夏でもう一度挑戦したいという気持ちが強かった。16年リオデジャネイロはもちろん、20年東京を目指して活動していきたいと思っています。

 

二宮: ソチで結果を出して、夏に向けていい弾みにしたいと。

久保: はい。今、一番の目標は、冬と夏の両方でメダルを獲ることなんです。だからソチでは何としてもメダルを獲って、リオや東京につなげていきたいと思っています。

 

二宮: ソチは、久保さんにとってバンクーバーに続いて2度目のパラリンピック出場ですが、4年前との違いを何か感じますか?

久保: 何より注目度が違いますね。会見や壮行会でも、メディアの多さにビックリすることが多いです。

 

伊藤: 今回は、スカパーの専門チャンネルで全競技が放映されます。オリンピック同様、現地に行くことができなくても、日本で応援することができるというわけです。

久保: パラリンピックを日本の皆さんに見てもらえる機会は、年々増えてきていますが、今回の全競技放映は驚きと同時に嬉しいニュースでした。

 

二宮: テレビを通じて、競技の面白さが、さらに伝わるでしょうね。

久保: そう思います。障害者スポーツというと、未だにリハビリの一環と思っている人は少なくありません。でも、僕たちは真剣に競技としてやっている。ぜひ、今回の放映をきっかけにスポーツとして見てもらいたいと思います。

 

 勝敗を左右するワックスがけ

 

二宮: ソチの雪質はやわらかく、オリンピックでは各競技で苦戦を強いられていました。3月に行なわれるパラリンピックでは、気温が高くなりますので、オリンピック以上の対応力が求められます。

久保: 昨年3月にソチの本番のコースでW杯があったのですが、毎日のように天候がころころと変わりました。春のように暖かい日もあれば、急に寒くなったり、大雨が降ったり......。毎日違うコンディションでの対応を強いられました。

 

二宮: 自然相手の競技ですから、不確実性の要素が多い。それにどれだけ対応できるかが問われます。

久保: はい、とても大事になってきますね。

 

二宮: スキー板のワックスも重要なポイントになりますよね。

久保: ワックスがけから、既に勝負が始まっていると言っても過言ではありません。

 

伊藤: 日本のワックス技術は世界トップだと聞いたことがあります。

久保: その通りです。とにかくスタートぎりぎりまで選手とワックスマンとでコミュニケーションをとって、一番いい仕上がり具合にしてもらいます。天候や気温の変化が激しいソチでは、よりワックスは重要になってくると思います。

 

二宮: ソチ本番まで残りわずかとなりました。体調を万全にして、全力を出し切ってほしいと思います。

久保: ありがとうございます。今度はメダリストとして会えるように、頑張ってきます。

 

(おわり)

 

久保恒造(くぼ・こうぞう)プロフィール>
1981年5月27日、北海道生まれ。高校3年時に交通事故で脊髄を損傷し、車椅子生活となる。入院中に知った車椅子マラソンでパラリンピックを目指し、2001年から本格的に活動を始める。07年からはシットスキーでクロスカントリーを始め、翌年夏に日立システムアンドサービス(現日立ソリューションズ)スキー部に入る。10年バンクーバーパラリンピックに出場。昨季はバイアスロンで日本人初の年間総合ランキング1位を獲得した。ソチパラリンピックではクロスカントリー、バイアスロンで計7種目に出場する。


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