アテネ、北京、ロンドンと3大会連続でパラリンピックに出場し、日本女子射撃界をリードしてきた田口亜希。その爽やかな笑顔と人柄の良さ、そして語学力にも長けていることから、彼女は2016年に続いて、20年五輪招致活動においても重要な役割を担っている。今年3月、IOC評価委員会が来日した際には英語でプレゼンテーションを行ない、東京をアピールした。そんな彼女に二宮清純がインタビュー。射撃の魅力やパラリンピックへの思いを訊いた。

 

二宮: 3大会目の出場となったロンドンパラリンピックでは、10メートルエアライフル伏射(男女混合・SH1)では44位、50メートルライフル伏射(同)では22位という結果でした。点数的にはどちらも600点中、580点以上と高得点を取っていると思ったのですが、ファイナリスト8人の得点を見て驚きました。10メートルライフルの方は、ファイナルに進んだ全8選手が600点満点。本当にレベルの高い争いですね。

田口: そうなんです。アテネ、北京では60発中、1度だけ9点を出しても、まだぎりぎりでファイナルに進むことができたのですが......。年々、レベルは高くなってきていて、ファイナルに進むには、もう1度も10点を外すことはできないようになりましたね。

 

二宮: 標的はどのくらいの大きさなんですか?

田口: 1点圏は直径46ミリで、10点圏の直径は0.5ミリの黒点です。弾の大きさが4.5ミリなのですが、その黒点に少しでもかかっていれば10点となります。

 

二宮: 1発目で9点だったら、もうメダルの可能性はほとんどなくなると。

田口: はい。そういう時は、もうガクンと落ち込みますよ。まだ59発もあるのに......。

 

 自然体で撃つことの重要性

 

二宮: ほんの少しのブレがミスにつながりますよね。呼吸さえも邪魔になるのでは?

田口: そうなんです。だから撃発の時は、息を止めるんです。

 

二宮: 引き金を引く時にブレたりしませんか?

田口: ブレますね。ですから、引き金をできるだけ軽くしておくんです。カチッとならないように、自分でも知らぬ間に引いているというくらいに調整しておきます。その調整ができるか、できないかも結果につながるんです。

 

二宮: 同じ姿勢を保つのは、相当大変でしょう?

田口: そうですね。ただ、射撃で重要なのは筋力で支えることよりも、いかに自然体で撃てるかということなんです。私は腹筋を使うことができないので、ベルトのような物を使用して競技をしているのですが、そのベルトを使って毎回同じ姿勢ができるかどうかが重要になってきます。

 

二宮: 60回も0.5ミリの黒点を狙うわけですから、目も疲れてくるでしょうね。

田口: 疲れますね。若い頃は平気で60発撃つことができたのですが、今は途中で目薬をささないとダメですね。

 

二宮: 1発にどのくらいの時間を割くのでしょう?

田口: ロンドンパラリンピック後は規定がかわったのですが、ロンドンまでは1時間15分の間に本番に入る前のテスト射撃と、本番での60発を撃ち終らなければいけませんでした。トップ選手は本当に速くて、30分後には撃ち終っている選手もいるくらいです。でも、私は時間をかけてしまうので、残り5分まで撃っていることもよくあります。遅い時には、残り1分とか、45秒という時もありますね。

 

二宮: 焦りが出たりすることは......。

田口: 私の場合、あまり焦りはないですね。自分としては、納得せずに撃発することが一番ダメなんです。ですから、納得していない時には、一度銃を降ろして、またもう一度やり直す。ただ、それだけのことなんですけど、周りの方が焦っているみたいですね。「早くしないと......」とイライラ、ソワソワしているらしいんです(笑)。

 

(第2回につづく)

 

田口亜希(たぐち・あき)プロフィール>
1971年3月12日、大阪市生まれ。大学卒業後、郵船クルーズに入社。25歳の時、脊髄の血管の病気を発症し、車椅子生活になる。退院後、友人の誘いでビームライフルを始め、その後ライフルに。アテネ、北京、ロンドンと3大会連続でパラリンピックに出場。アテネでは7位、北京では8位に入賞する。現在は郵船クルーズに勤務する傍ら、競技生活を続けている。英語も堪能で、2016年五輪招致活動では最終プレゼンターを務める。今年3月には、20年五輪招致における国際オリンピック委員会(IOC)評価委員会の前でプレゼンテーションを行なった。


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