シドニー、アテネ、北京、ロンドンと4大会連続でパラリンピックに出場し、日本の車椅子バスケットボール界を牽引してきた京谷和幸。ロンドンパラリンピック後、現役引退を表明した彼は今、次なる目標へ向かい、動き始めた。それはサッカーの指導者への道だ。元Jリーガーの京谷にとって、やはりサッカーの存在は大きく、その情熱は少しも薄らいではいない。「車椅子バスケットで培ってきたことを活かした指導者になりたい」と語る京谷に、二宮清純がインタビューした。

 

二宮: 4度目の出場となった昨年のロンドンパラリンピックでは、ベスト4進出を目指していましたが、結果は予選リーグ敗退となりました。

京谷: 若いチームでしたから、経験という点では不足していたのは否めません。ただ、大きな可能性を秘めたチームだなとは思いましたね。なにしろ藤本怜央、香西宏昭と、世界からマークされるような日本人選手が2人も出てきたわけですから。

 

二宮: 若い選手が多い中で、経験豊富な京谷さんの存在はチームにとって大きかったのでは?

京谷: プレーの質という点では高いものはもっているのですが、メンタルの面ではムラがあるチームでした。そういう部分で、気持ちが落ちている時に、いかにそれ以上落ちないようにするか、それが最年長である僕の役割でしたね。一プレーヤーではあったのですが、プレーヤー同士の中においてはコーチ的存在でした。

 

二宮: 予選リーグ敗退の原因は何だったのでしょう?

京谷: コートの中でのリーダーの不在が大きかったと思います。若いだけに勢いに乗ると強さを発揮できるのですが、何かひとつでも歯車が狂うと、バタバタッと崩れていくんです。もちろん、タイムアウトがかかれば監督やコーチの指示で立て直すことはあるのですが、タイムアウトが取れない時もある。そういう時に、適切な指示を出せるゲームリーダーがいなかったかなぁという感じがしましたね。

 

きっかけは元スター選手との対談

 

二宮: ロンドンでの試合が終わって1週間後には引退を発表されました。

京谷: はい、もうこれはロンドン前から決めていたことでした。実は北京パラリンピックを終えた時に、日本代表からは引退しようと考えていたんです。でも、その後、いろいろな人から「次も頑張って」という声をかけていただいたこともあって、「もう一度、ロンドンを目指して頑張ろうかな」と。でも、ロンドンが終わったらプレーヤーとしても引退をしようと。そういう気持ちで4年間、取り組んできましたし、次の目標がはっきりしていたので、ロンドンが終わった後は意外とサバサバしていましたね。

 

二宮: 「次の目標」とは、以前から宣言していたサッカー指導者への道?

京谷: はい、そうです。

 

二宮: 何かきっかけはあったのでしょうか?

京谷: 北京前から「将来的にはサッカーの指導者をやりたいなぁ」と漠然とした思いはあったんです。はっきりとした思いに至ったのは、北京パラリンピック直前に行なった羽中田昌さんとの対談でした。

 

二宮: 羽中田さんと言えば、高校時代には1年時からレギュラーとして全国大会に出場するなど、早くから将来を嘱望されていた選手でした。残念ながら高校卒業後の交通事故で下半身不随となって選手生命は断たれましたが、S級ライセンスまで取得してサッカー指導者になった方です。

京谷: 僕が小学校時代、羽中田さんはまさにスーパースターで、憧れの的でした。そのような方と対談する貴重な機会をいただいたのですが、その時に僕がポロッと「指導者になろうと思っています」と言ったんです。そしたら、羽中田さんが「できるよ! 絶対にやった方がいい」と。その言葉に背中を押されましたね。「よし、指導者になろう!」と気持ちが固まりました。

 

(第2回につづく)

 

京谷和幸(きょうや・かずゆき)プロフィール>

1971年8月13日、北海道生まれ。小学2年からサッカーを始め、室蘭大谷高校時代にはインターハイ2回、高校選手権3回、国民体育大会3回出場。3年時の選手権では優秀選手に選ばれた。2年時にはユース代表、3年時にはバルセロナオリンピック代表候補にも選ばれるなど、将来を嘱望されていた。高校卒業後、古河電工(現ジェフユナイテッド千葉)に入団したが、93年に自動車事故で引退。94年から車椅子バスケットボールチームの千葉ホークスに所属し、全国車椅子バスケットボール選手権大会で8度の優勝を経験。日本代表としてはシドニー、アテネ、北京、ロンドンと4大会連続でパラリンピックに出場した。ロンドン大会後、現役引退を表明し、サッカー指導者としての道を歩み始めた。昨年12月に日本サッカー協会公認C級コーチライセンスを取得。現在は来年のB級取得を目指している。そのほか、講演や一般社団法人「運動の和」代表代理も務めるなど、幅広く活躍している。

京谷和幸オフィシャルサイト http://www.kyoyastyle.com/


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