二宮: 5月27日の選考会では優勢勝ちでロンドンパラリンピック出場を決めました。試合の内容はいかがでしたか?

小川: 悪くなかったと思いますよ。背負い投げで2つ有効を取った後、相手の大外刈りを払い腰で切り抜けて、技ありをとりましたからね。背負い投げ以外でポイントを取って勝ったのは初めてだと思います。

 

二宮: 小川さんは現役時代、払い腰がうまかったですからね。それを半谷さんに伝授されているんですね。

小川: 払い腰を習得したことで、相手の技をしっかりと返せるようになったことは大きいですね。加えて、これまでやってきた背負い投げがありますから。

 

二宮: 技の引き出しが増えたことで自信にもつながったのでは?

半谷: はい。今まではとにかく担ぐことしかできなかったのですが、払い腰を覚えたことで、背負い投げにつながる動きのバリエーションが増えました。今、とても柔道が楽しいんです。

 

二宮: 成長していることが実感できるから、楽しいと思えるんでしょうね。

小川: そうだと思います。今までは野球で言えば、直球だけしか投げられなかったのが、ようやく変化球も使えるようになったと。でも、まだまだ引き出しは増やせますから、これからさらに伸びるはずです。

 

 肌で感じた五輪選手の強さ

 

二宮: 先日、筑波大学に出稽古に行った際には、ロンドン五輪48キロ級代表の福見友子さんや、昨年の世界選手権金メダリストの佐藤愛子さんと一緒に練習をしたとか?

 半谷: はい。お二人に相手をしてもらったのですが、今までに味わったことのない強さを感じました。

 

二宮: 例えば、どういう部分で強さを感じましたか?

半谷: 何をしても埋まらない空間がありました。グッと組み手を引いて体を寄せようとしても、全く寄せられないんです。技をかけようにも、遠くてかけられませんでした。これまでだったら、自分よりも強い相手でも、こちらが無理やり力づくで引けば、体を引き寄せられたのですが、お二人にはそれが通用しませんでした。「あぁ、これがオリンピック選手の強さなのかな」と感じました。

 

二宮: でも、肌でオリンピック選手の強さを感じることができたのは、貴重な体験でしたね。

半谷: はい。お二人とも全然嫌がらずに私と組んでくれたんです。特に福見さんは五輪直前の大事な時期だというのに......。とても感謝しています。

 

(第4回につづく)

 

半谷静香(はんがい・しずか)プロフィール>

1988年7月23日、福島県生まれ。生まれつき弱視の障害がある。中学1年から柔道を始め、大学1年時に初めて出場した全国視覚障害者柔道選手権で優勝。昨年3月の東日本大震災で被災し、行き場を失ったところへ手を差しのべてくれた「小川道場」に入門した。小川直也氏に師事し、稽古に励んでいる。ロンドンパラリンピックでは女子52キロ級代表として、初めてのパラリンピックに挑む。

 

小川直也(おがわ・なおや)プロフィール>

1968年3月31日、東京都生まれ。高校1年から柔道を始め、明治大学1年時には全日本学生柔道選手権で優勝。史上2人目の1年生王者となる。2年時には史上最年少で柔道世界選手権無差別級を制覇。4年時には同大会で95キロ超級、無差別級の2階級制覇を達成した。卒業後、90年にJRA(日本中央競馬会)に入会。92年バルセロナ五輪95キロ超級で銀メダルを獲得した。96年アトランタ五輪では同級5位。翌年にはプロ格闘家に転向した。現在はプロレスラーとして活躍する傍ら、2006年に設立した「小川道場」で指導を行なっている。

小川道場 http://www.ogawadojo.com/


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