人と人が共に生き、共に育つ学校づくりに勤しんでいる一人の教育者がいる。星槎学園の創設者、宮澤保夫だ。同学園に通う子どもたちには、3つの約束がある。「人を排除しない」「人を認める」「仲間をつくる」。どれもが簡単そうで、難しい。それを独自の発想と行動力で実現させてきたのが宮澤だ。登校拒否、発達障害、学習障害などで一般の学校に受け入れられなかった子どもたちの身になり、再出発の教育設計を一緒に行なっている。その宮澤に、今の日本の障害者スポーツはどう映っているのか。

 

伊藤: 今回は「人生を逆転する学校」と呼ばれる星槎グループの創設者・宮澤保夫さんをゲストにお迎えしました。不登校や発達障害など、様々な困難さを抱える子どもがいますが、宮澤さんはそういった子どもたちが楽しく学び合える幼稚園や学校をつくられてきました。こうした互いを認めて学び合う学校づくりの精神は、まさに今の障害者スポーツに必要とされていると感じています。

 

宮澤: 例えば目が見えないとか、腕や足を失ったというのは、それぞれの特性だと捉えることができると僕は思っているんです。逆に言えば、彼ら彼女らは他の人には決してできない経験をしているわけです。もちろん、苦労や困難はたくさんあるでしょう。しかし、それを「大変だね」と言って終わらせるのではなく、その特性を認めて、受け入れる環境を整えることが大事。目が見えなくても、義手や義足でもスポーツができる環境を用意することこそが、今の社会には必要だと感じています。

 

 諦めない心を育てる"先回り"

 

二宮: 現在の日本は受け入れ体制が不十分だと言われています。ナショナルトレーニングセンターひとつとってもそうです。オリンピック選手は使用できるのに、同じ日本代表のパラリンピック選手は原則として使用が許されていません。申請をしても、たらい回しにされたあげく、ようやく許可されたと思ったら「入れるのはこのコートのみ」などという厳しい条件付き。日の丸を背負って世界で戦うためにトレーニングをしているというのに、シャワー室や食堂さえも使用を許されないという話もよく耳にします。

 

宮澤: それはひどい。そんなことが平気で行なわれているのは、誰がどう考えてもおかしい。「今はすぐに夢を諦める」なんて言われたりするけれど、環境的に諦めざるを得ないことも少なくないんですよね。障害者スポーツも同じことが言えると思います。私は常に先回りをして、子どもたちが諦めなくて済むような環境づくりを心掛けているんです。

 

二宮: 障害者スポーツにおいても、国や自治体にこそ、宮澤さんのような"先回り"が必要なのですが、どうも理念ばかりが先行して、環境づくりは後手後手に回っていると感じることが少なくありません。

伊藤: そういう意味では昨年、「スポーツ基本法」が制定され、国としてスポーツ立国を目指しているわけですから、今後は"先回り"の環境整備が進められていくことを願ってやみませんね。

 

(第2回につづく)

 

宮澤保夫(みやざわ・やすお)プロフィール>

1949年、東京都生まれ。慶應義塾大学文学部中退後、72年に塾を開講。アパートの一室で2人の生徒からスタートした塾はやがて規模を拡大し、85年、現在の星槎学園の前身、宮澤学園を設立。不登校などの子どもたちを受け入れ、個々のニーズにあった教育を施す。現在は、星槎グループとして幼稚園から大学まで展開し、独特のカリキュラムで子どもたちに寄り添った教育が行なわれている。2010年には教育と医療の分野で世界の子どもたちをサポートする「一般財団法人世界こども財団」を設立した。

星槎グループホームページ http://www.seisagroup.jp/


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