1612mine6 日本女子ソフトボールリーグで2年ぶり9回目の優勝を果たしたトヨタ自動車レッドテリアーズ。リーグ戦は19勝3敗でトップ通過し、決勝トーナメントでも危なげなかった。その立役者は今シーズンからトヨタ自動車に加入した峰幸代だ。1年のブランクを経て復帰した元日本代表の正捕手がチームにもたらしたものとは――。

 

 2014年オフ、峰は所属していたルネサスエレクトロニクス高崎が廃部となった。チームがビックカメラに移管するのを機にユニホームを脱ぐ決意した。まだ26歳の若さだった。

 

 しかし、現役を引退してから日本リーグを観戦すると、ふつふつと湧き上がる感情があった。

<「『私はなんでスタンドで観ているんだろう』『あの打席、私だったどうしていたんだろう』。試合を見ていてもそんなふうに思えてくるんですよね。素直に応援する気にはなれなかった。自分の気持ちに向き合ってみて、やっぱり、選手として完結できていなかったんです」>(ソフトボールマガジン2016年5月号)

 

 2016年のシーズンから峰は再びプレーヤーとしての道を選んだ。チームは前身がルネサス高崎のビックカメラ高崎BEE QUEENへ“出戻る”のではなく、誘いのあったライバル・トヨタ自動車に加入した。

 

1612mine かつては日本代表の正捕手で4番バッターを務めたことがあるとはいえ、トヨタ自動車としては“1年生”である。さらには1年のブランク。チームにフィットするのは容易ではなかったはずだ。事実、開幕節で絶対的エースのモニカ・アボットとバッテリーを組み、先発マスクを被ったのは4年目の馬場今日子だった。福田五志監督も「峰より馬場の方がアボットを引き出すには現時点ではいいという判断で決めた」と認めた。

 

 入団に際し、峰に声をかけたのは福田監督だ。「冷静ですね。思考力も高いし、その中に判断力も経験値としてしっかり持っている」と彼女の能力を高く買っている。特にリード面は「相手バッターをよく見て、ピッチャーのいいボールを生かせる。そのあたりは流石ですね」と太鼓判を押す。次節からはスタメンマスクを峰に任せたことからも分かるように、指揮官の信頼は日を増すごとに高まっていった。

 

 言動で支えた復活の1年

 

 シーズン終盤にはアボットの力も引き出した。10月9日に行われた第8節のHonda Reverta戦では完全試合達成に一役買う。峰自身も「彼女のいいところを引き出せるようなプレーをしていかなければいけないと思っている。一番練習でやってきたことをベストなかたちで出した試合だったので、いい手応えがありました」と胸を張った。

 

1612mine2 11月26日からの決勝トーナメントでも、アボットは圧倒的ピッチングを披露した。2試合連続2ケタ三振を奪っての完封勝利を挙げた。峰もバットと好リードで2年ぶりの王座奪還に貢献。アボットは「峰は経験のあるキャッチャー。練習や試合でいろいろ話し合ってきました。彼女は経験をもとに、自分を高めてくれる存在です」と女房役を称えた。

 

 福田監督は、峰が“背中”で見せた部分も評価している。

「北京五輪で金メダルを獲ったキャッチャーですから、彼女の存在は大きい。それに引退して1年のブランクがあって、この1年を頑張ってきた姿を選手たちは見ている。信頼という意味でもチームの一員になっているし、その姿を見て他の選手も頑張ろうと思ったはずです。チームにもたらした彼女の貢献度は非常に高いです」

 

 チームメイトも経験豊富な峰の加入は大きかったという。主軸打者の長﨑望未は「他の選手たちが分からないことをたくさん教えていただきました。入ってすぐに主力となってトヨタを支えてくれた1年でした」と語る。攻守の要である渥美万奈は「今まで峰さんはルネサス高崎にいたので、トヨタの攻め方も全部教えていただいて、そういう面で自分たちに足りない部分を知ることができました。『ここはもっと伸ばしたほうがいいよ』と個人個人に教えていただいて、それを今年はみんなで課題としてやってきたことが結果に繋がったと思っているので、本当に感謝しています」と口にした。

 

 一方、峰自身は「私も“もっともっと頑張らないと”と思えるチームでよかった。みんなには感謝しています」と言って、この1年を振り返った。

「トヨタはみんなが日本一になるためにはどうしたらいいかと選手1人1人が自立して考えられるチーム。私もキャッチャーとして求められているものが高いんだなと感じました。“難しいな”“どうやったらいいの”と、いろいろ考えたこともあったんですけど、みんなに求められていることが私にとって幸せだったし、自分自身が成長しなきゃいけないと思いました」

 

 峰が他の選手たちの力を巧く引き出した一方で、トヨタ自動車というチームもまた彼女の能力をさらに引き上げたのだ。指揮官が「我々はソフトボール界を、日本リーグをリードしていくポジション」と豪語するトヨタ自動車で、峰は再び輝きを取り戻した。

 

1612minepf峰幸代(みね・ゆきよ)プロフィール>

1988年1月26日、長崎県生まれ。小学3年で野球を始め、中学からソフトボールに転向した。木更津総合高卒業後の2006年、ルネサス高崎に入社。同年のベストナインと新人賞を受賞した。08年北京五輪に出場し、金メダル獲得に貢献。世界選手権には3度出場し、10年は準優勝、12年と14年は優勝を経験した。14年限りで引退。1年のブランクを経て、16年シーズンからトヨタ自動車で現役復帰を果たし、チームをリーグ優勝に導いた。身長165センチ。右投右打。背番号「2」。

 

(文・写真/杉浦泰介)