1612suzuki12「第92回東京箱根間往復大学駅伝競走」(箱根駅伝)は鈴木健吾にとっても、神奈川大学にとってもほろ苦いものとなった。鈴木は2区を走り、区間14位。各校のエースの背中は遠かった。神大は総合13位で、上位10校までに与えられるシード権にも届かなかった。だが悔しさを養分にし、鈴木の才能は開花し始めた。

 

 3月の日本学生ハーフマラソン選手権は1時間3分8秒で、トップとは1秒差の3位に入った。5月の関東学生対校選手権(関東インカレ)2部1万メートルでも3位。駒澤大学の中谷圭佑(4年)、青山学院大学の一色恭志(4年)に競り負けたものの、大学陸上界のエースたちと勝負した。

「最後は負けてしまったんですが、後半まで絡めたのは自分にとって自信になりました」

 

 序盤は日本薬科大学のサイモン・カリウキ(2年)が引っ張る展開だった。徐々に絞られていく先頭集団。カリウキ、一色、中谷に鈴木も続いた。残り3周を切ったあたりで仕掛けたのは鈴木だ。「ラストのスプリントのなさが自分の弱みでした。だから、それまでに離して、勝負を決められたらなと思ったんです」。カリウキが優勝争いから離脱すると、日本人の三つ巴の様相を呈した。

 

 長身の2人に迫られながら、鈴木は先頭を引っ張っていた。だが、ラスト1周の鐘が鳴る前に中谷が先行した。次第に離れていく中谷の背中。一色にもかわされ、2人から距離を置かれていった。

「自信に繋がったと同時に、まだまだもう1ステップ上に上がるには足らないなと思いました。力の差は全体的に感じました。ラスト勝負もそうですし、レースのまわし方もそうです。2人に最後のスパートがそれだけ出せるのは、それだけ余裕があるということなので、完全に力の差ですね」

 

 エースの背中は見え始めてきた。7月のホクレンディスタンスチャレンジ北見では社会人が交ざったレースでも28分30秒16でトップになった。関東インカレでマークした自己ベストを20秒近く更新。成長は加速していった。

 

 背中で見せるリーダーシップ

 

1612suzuki10 今シーズン、鈴木が飛躍した理由のひとつにキャプテン任命が挙げられる。箱根駅伝が終わった時点ではキャプテンは4年生の東瑞基だった。だが東がケガの影響もあり、なかなか結果を残せていない現状もあった。神大の大後栄治監督は思い切った決断をとる。それは3年生エースに駅伝主将を任せることだ。

 

 鈴木も驚きはしたが、迷うことなくその重責を引き受けた。

「自分はあまり前に出てしゃべるタイプじゃないので、そういう部分で不安はありました。でも監督に任せていただいたからには、頑張るしかない。自分は口で言うよりも走り、結果という部分でチームを引っ張っていこうという気持ちです」

 背中で見せる――。それが鈴木のリーダーシップ術だ。

 

 大後も、こう言って鈴木の背中を押したという。

「『バランスは取らなくていい』と言っています。理に適ったわがままならいい。強くなるためにありとあらゆるものを吸収しないといけない。『自分勝手だと思われても構わん。ただ結果だけ出せ』と。それに応える素養は持っている」

 

 駅伝主将の座を奪われたかたちとなった東だが、「正直ホッとしている部分もありました。結果を残して終わりたいのもあって、選手として集中もできますから」と明かす。そして背中で引っ張る1学年下のキャプテンシーを認めている。

「やはり後輩に負けるのは上級生としては悔しい。“健吾がこれだけやっているから、自分たちもこれぐらいやらなきゃ”という気持ちは上級生の中でも出てきています。健吾が練習でも強い部分を見せてくれて、みんなが“まだ自分たちはダメだ”と思えている。それで中間層が“上へ、上へ”と成長していけているんだと感じます」

 鈴木は走りで、チームの底上げに寄与した。

 

 ポイント練習ではいつも鈴木と一緒に走る2年生の山藤篤司は次代のエース候補だ。11月の記録会では鈴木を上回る28分29秒43で走った。1学年上の鈴木に対し、「練習でも負けたくないんで、競り合いになったら戦います」とライバル心を燃やす一方で尊敬もしている。

「背中で引っ張っていく感じなので、言わなくてもみんながついていく存在です」

 

 胸に抱く日の丸への想い

 

1612suzuki11 責任感が彼を強くした。そのことに間違いない。ただ、それはリーダーとしての責任感だけではない。鈴木を指導する大後は「やっぱり国際大会を具体的に目指すようになったことじゃないですかね」と証言する。鈴木は来年夏のユニバーシアードでハーフマラソンの日本代表入りを狙っているのだ。高い志がさらに彼の背中を押した。

 

 大後は昨年のユニバーシアードにコーチとして帯同している。鈴木も監督からの“土産話”を耳にして、明確に意識するようになっていた。「監督が前回のユニバーシアードから帰ってきた時にいろいろ話を聞いて、“自分も行きたいな”と強く思いました」。陸上競技に限らず、日本代表を経験することで飛躍的に成長を遂げる者もいる。高いレベルでもまれること、代表選手の自覚を持って帰ってくることで、1ステップ上に駆け上がっていくのだろう。

 

「陸上をやっている上で、それが一番の憧れです」

 鈴木は日の丸への想いを隠そうとはしない。意識が高くなれば、練習の質も量も向上する。夏合宿の鍛錬期には1200キロも走った。在学中にフルマラソン挑戦も考えている。

「今後は卒業後にマラソンで東京オリンピックを目指したいと思っています。そのためには今のうちに走り込んでおこうということもありました。これから駅伝シーズンということも考えたら、しっかりとした足づくりが大事なので、去年より、一昨年よりも距離を延ばせてきているのかなと」

 

 来年の箱根駅伝では2区が濃厚とされている。プラウドブルーの襷を掛けて、1年前は力の差を見せつけられたエースが集う“花の2区”で自らの力を証明する。神大の12年ぶりのシード権獲得は最低条件と捉えている。

「やはり今年シードを獲らないと出雲駅伝に出られない。自分が4年になった時に三大駅伝で勝負したい」

 

 163センチと小柄だが、大きな走りで魅了する。箱根路を通過点に、ユニバーシアードを駆け抜け、そしてマラソンへのステップを踏む。その先に見えるのが、東京五輪だ。タフでストイックな鈴木が、殻を完全に破った時、日本の長距離界に光が射す――。

 

(おわり)

 

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1612suzuki4鈴木健吾(すずき・けんご)プロフィール>

1995年6月11日、愛媛県宇和島市生まれ。小学6年時に陸上を始める。城東中学を経て、宇和島東高校に入学。3年時にはインターハイに出場し、5000メートルで10位に入った。同年は全国高校駅伝にも出場した。14年に神奈川大学に進学し、1年時の全日本大学駅伝で三大学生駅伝デビューを果たす。15年の箱根駅伝は6区、16年は2区を走った。今シーズンは3年生ながら駅伝主将を任される。関東インカレ2部の1万メートルで3位入賞。箱根駅伝予選会では日本人トップ、総合3位の好成績でチームの本戦出場に貢献した。身長163センチ、体重46キロ。

 

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(文・写真/杉浦泰介)

 

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