(写真:軽量級とは思えぬような破壊力のあるパンチで日本人対決を制した井上<右>)
ボクシングのダブル世界戦が東京・有明コロシアムで行われた。WBO世界スーパーフライ級タイトルマッチは王者の井上尚弥(大橋)が同級10位の河野公平(ワタナベ)に6ラウンドTKO勝ちを収め、4度目の防衛を果たした。IBF世界ライトフライ級タイトルマッチは王者の八重樫東(大橋)が12ラウンドで挑戦者を仕留めた。
底知れぬ怪物の力
虎穴に入らずんば虎子を得ず。勇敢な挑戦者は勝つためにリスクを背負った。しかし、王者は冷静に獲物を討った。
勝負が決まったのは6ラウンドだった。30秒が経過したころ、踏み込んだ河野の顔面を、井上の左フックがとらえた。大の字に倒れる挑戦者。王者は一瞬、勝利を確信してロープに登った。なんとか立ち上がった河野だったが、井上がラッシュを仕掛けると再びマットに沈んだ。レフェリーが試合を止め、勝負は決した。
(写真:機先を制すジャブ以外に、左のボディも効果的だった)
「作戦通りでした」と、井上はしてやったりの表情で振り返った。「打とうとしたところを合わせられた。天才ですね」。河野の所属するワタナベジムの渡辺均会長は脱帽した。同じくセコンドについた高橋智明トレーナーは、井上がカウンターを狙っていたのは感じ取れていたという。「でも(勝負に)行かなければ話にならなかった」と選択に後悔はない。事実、井上も「自分からいくパターンも作っていた」と話している。
「ジャブが痛くてストレートのようだった」とは河野の談。それほどまでに井上のパンチは威力があった。ボディに顔をゆがませ、2ラウンド終了時にはまっすぐセコンドの下にも戻れなかった。「番狂わせを起こします」と宣言していた河野。ノーモーションの右ストレートなどを駆使して井上を倒しにいったものの、返り討ちに遭った。粘りが身上の男が喫した初めてのKO負けだった。
(写真:井上は「タフなのはわかっていた」という相手も難なく倒してみせた)
接近戦を仕掛けられ、パンチを食う場面もあったが、井上は「想定内」と冷静だ。ガードをしっかり固め、じっくりと河野を料理した。それでも自己採点は「70点」と辛い。「接近戦でのブレは第一に修正しないといけない」と課題を挙げる。父・真吾トレーナーが「接近戦で身体が浮いている場面があった。重心を落としてボディワークでやってほしかった」と補足した。
43戦のキャリアを誇る河野をして、「一番強い相手だった」と井上を称する。だが大橋秀行会長は「オレから見れば7割か8割の出来。腰の影響でスタートが遅れている。まだ本調子じゃない」と語る。それだけ“怪物”の潜在能力は底知れぬということだ。成長し続ける23歳の王者に今後の期待も膨らむ。
“軽量級最強”の呼び声高いWBC王者ローマン・ゴンサレス(ニカラグア)との統一戦などビッグマッチが望まれる。井上も「自分もできるのであれば、やっていきたい」と前向きだが、「体重とタイミング」と越えるべきハードルがあるのも事実だ。大橋会長はいずれスーパーフライ級からバンタム級への階級変更することを示唆しており、そうするとスーパーフライ級として戦うのは来年いっぱいまでか。
“激闘王”、節目の試合飾る
(写真:勝ち名乗りを上げる八重樫。この日は腫れやすい顔もほぼ無傷の完勝)
アマでの70戦と合わせるとキャリア100戦目。八重樫が節目の一戦を見事KO勝ちで飾った。
対戦相手はサマートレック・ゴーキャットジム(タイ)。ムエタイのキャリアは200戦以上、ボクシングはプロ37戦目となり、八重樫が上回る場数を踏んでいる。八重樫も「勇敢でタフなファイター」と警戒していた。
2度目の防衛戦となった八重樫は序盤、じっくり相手を見て戦った。距離を取りながら、足を使った。
ラウンドを追うごとにパンチも当たるようになり、6ラウンド以降は連打も見られた。サマートレックをロープ際に追い込み、圧力をかける。ダウンこそ奪えなかったものの、八重樫のペースで試合を進めた。
(写真:奪ったダウンは1度だけだが、ロープ際に追い込む場面は何度も見られた)
迎えた12ラウンド。八重樫がこのまま3分を無難にやり過ごしても、判定勝ちは濃厚だっただろう。ラッシュを仕掛けると、2分13秒でレフェリーが2人の間に割って入った。「早く詰められたが、やりにくかった。陣営からもGOサインが出ていた。しっかり倒せて良かった」と八重樫。V2を達成し、リング上に我が子を上げて喜んだ。
今後は暫定王者のミラン・メリンド(フィリピン)との統一戦が有力だ。「まだまだ未熟。日々精進していきます」。“激闘王”は2017年も全力投球していく。
(文・写真/杉浦泰介)