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(写真:ロープ際まで追い込む場面は見られたが、決定打はなかった)

 31日、ボクシングの世界タイトルマッチが東京、岐阜、京都の3都市で5試合行われた。東京・大田区総合体育館でのWBA世界スーパーフェザー級タイトルマッチは前スーパー王者の内山高志(ワタナベ)が現王者ジェスレル・コラレス(パナマ)に判定負け。4月に王座を奪われたリベンジはならなかった。コラレスは初防衛に成功した。WBA世界ライトフライ級タイトルマッチは王者の田口良一(ワタナベ)が同級3位のカルロス・カニサレス(ベネズエラ)と引き分け。ドロー防衛で王座を守った。

 

 岐阜メモリアルセンターで愛ドームでのWBO世界ライトフライ級王座決定戦は、2位の田中恒成(畑中)が3位のモイセス・フエンテス(メキシコ)に5ラウンド1分52秒TKO勝ち。プロ8戦目で2階級制覇を果たし、井上尚弥(大橋)に並ぶ日本人最速記録を達成した。

 

 島津アリーナ京都で開催されたWBA世界フライ級王座統一戦は王者の井岡一翔(井岡)が暫定王者のスタンプ・キャットニワット(タイ)を7ラウンド2分51秒TKOで破り、4度目の防衛。一方、IBF世界スーパーバンタム級タイトルマッチは5位の小國以載(角海老宝石)は王者のジョナタン・グスマン(ドミニカ共和国)に判定勝ちを収め、世界初挑戦で王座を奪取した。

 

 リベンジマッチは最後まで嚙み合わず

 

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(写真:判定が決まった瞬間。内山は静かに宙を見上げた)

 リングアナがジャッジペーパーを読み上げる間、レフェリーにコラレスは左腕、内山は右腕を掴まれていた。判定は王者と挑戦者の1―1となり、最後の1人の審判に勝敗は委ねられた。だが、大田区総合体育館に詰めかけた観客のほとんどが望んだ結果にはならなかった。ブーイングも入り交じる中、左腕を掲げられたコラレスは歓喜を爆発させ、一方の内山は静かに肩を落とした。

 

「TIME FOR PAYBACK」(復讐の時)。内山陣営が着るTシャツにプリントされた文字こそが、内山の最大のテーマだった。2016年4月27日、6年3カ月もの間、守り続けてきたWBAスーパーフェザー級の王座を失った。再起戦はそのままタイトルマッチ。そしてベルトを奪われた相手との直接対決となった。いわゆるダイレクトリマッチである。

 

 内山は入場曲を親交のあるヒップホップミュージシャンのAK-69のものに変えた。心機一転の思いもあったのだろう。しかし、そのほかは見慣れた光景だ。6年連続の大晦日興行のメインイベント。黒いフード付きのガウンを羽織り、後援会ら作り上げた花道を歩いてリングに向かった。

 

 今回、これまでと大きく違うのは挑戦者という立場だ。いつもは赤コーナーにいる内山を見ているワタナベジムの渡辺均会長には違和感はなかった。「ただチャンピオンと挑戦者の違いだけ。内山の表情もいつもと変わらないです」と感想を述べた。内山は落ち着いた顔つきで、リングに上がる。冷静なのか、静かに火を燃やしているのかまでは読み取れない。

 

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(写真:内山同様にコラレスも対策を練ってきた。パンチが空を斬る場面も)

 ゴングが鳴り、両者が拳を合わせる。8カ月前は決着まで6分と持たなかった。飛び込んでいったところをカウンターで当てられた前回の反省を踏まえ、内山はガードを固めながら慎重に距離を詰める。内山がパンチを繰り出すと、コラレスは下がりながらも、機を見れば一気に前へ出てくる。観客からも歓声が上がるほど緊迫した攻防。実際に手は出てなくても両者の頭の中では無数のパンチが飛び交っていたのかもしれない。斬るか斬られるか。果し合いのような張り詰めた空気が場内を包む。

 

 序盤の4ラウンドを終えると、試合は動き出す。5ラウンド終了間際だった。内山のカウンターの左がコラレスに当たり、ダウンを奪う。だが「スリップ気味」と内山の感触は鈍く、すぐにラウンド終了のゴングが鳴った。コラレスのダメージも大きくないようで、決定打とは言えない。

 

 その後も内山が攻めるが、左のジャブが決まらない。これにより、二の矢三の矢を放つことができなかった。コラレスがパンチを返してくるため、不用意には飛び込めない。フラストレーションばかりが溜まる展開。コラレスもクリンチなど多用し、時間を消費する。

 

 それでも内山は9ラウンドにボディを効かせ、チャンスを掴んだかに思えた。ロープ際に追い込むが、コラレスに抱きつかれて回避されてしまう。クリンチ、ホールディングと減点ギリギリの行為で凌ぐコラレス。ラウンド開始寸前まで椅子に座り、相手を一瞬待たせる。狡猾な作戦で相手にペースを握らせなかった。

 

 結局、互いに決定打もなく12ラウンド終了のゴングを聞いた。ジャッジは1人が114-113で内山を支持。残りの2人は110-117、112-115。攻めの姿勢があったのは明らかに内山だった。それもあって判定を聞いて観客からはブーイングが起こったが、内山自身は「僕は取られたかなと思っていた。妥当かな。リベンジマッチで挑戦者は(ポイントを)はっきり取らないといけない」と不服の様子は見られない。

 

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(写真:クリンチで逃げるコラレス<左>。最後まで内山に距離を掴ませなかった)

「(ボディが)効いた時に次のラウンドももっとうまくできていれば。ずるずると後半までいってしまった」と反省の弁を述べた。対策を練って臨んだものの、「カウンターが巧くて踏み込めなかった」と最後まで距離を詰め切れなかったことが敗因だろう。渡辺会長は「前回ほどのショックはない。やりづらく苦手なタイプ。力と力の勝負じゃないので、一番戦いづらい」と分析する。セコンドについた佐々木修平トレーナーは「効かした場面もありました。ただ相手が逃げるのが巧かった。パンチ出さなくてもフェイントも仕掛けていた。うまく誤魔化された」とコラレスの試合巧者ぶりに舌を巻いた。

 

“KOダイナマイト”は不発に終わり、内山はリベンジに失敗した。「悔しいけど、負けてしまったのは僕の力不足」。口ぶりは淡々としていたものの、「勝ち以外考えていなかった」と話す通り、忸怩たる思いがあるはずだ。進退に関しては「今はちょっとゆっくりしたい」と明言を避けた。黒星だけで終わった2016年。年が明けて内山はどんな決断を下すのか。

 

 決定打奪えず、薄氷の防衛

 

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(写真:引き分けに終わり、笑顔は見られなかった田口<左>)

 内山の弟分・田口は、5度目の防衛を果たしたものの、勝利を飾ることはできなかった。

 

 対戦相手のカニサレスは16戦全勝13KOというハードパンチャー。8割を超えるKO率を誇る強打を警戒していたからか、田口は序盤をじっくり攻めた。一方のカニサレスも連打で返しながら、リングで円を描くように動き回った。

 

 田口がリーチを活かして、圧倒しているようにも見えたが、カニサレスも守り一辺倒ではなくパンチを打ってくる。カニサレスのパンチをもらってはいないものの、単発ではなく複数返してくるため印象も悪かった。4ラウンド終了時のジャッジペーパーを見ると、0-2で挑戦者が勝っていた。

 

 中盤以降は左ボディなど効かせるパンチもあった。それでもクリンチを使って逃げ切られ、最後まで田口も主導権を握ることはできなかった。「やりづらくて困りました。相手の出方が作戦と違った」。カニサレスの引いたボクシングは想定外だったようだ。12ラウンドが終了し、判定となった。1人が田口、もう1人はカニサレス、最後の1人は引き分けと、ジャッジの評価は三者三様。引き分けのため、田口のベルトは守られた。

 

「とりあえずベルトを防衛できて良かった。もっともっと練習します」と王者は頭を下げた。

 

(文・写真/杉浦泰介)