皆さま、新年あけましておめでとうございます。本年もよろしくお願いいたします。さてプロ野球は今、シーズンオフですが、ここをどう過ごすかで成績が左右される大事な時期でもあります。


 私が南海ホークスに入団したころは12月28日まで練習があり、年明けは1月5日には寮に戻り15日から始まる合同自主トレに備えていました。その合同自主トレがハンパじゃなく厳しくて、12月初旬からオフに入っていたベテラン勢は筋肉痛で寮の階段を上るのも大変そうだったことを今でも鮮明に覚えています。たしか5年目のオフから「12月、1月はユニホームを着て練習してはいけない」「コーチがグラウンドに来てはいけない」となり、みんなで大喜びしてオフは遊びまくっていたことは苦い思い出となっています(苦笑)。

 

 さて私の昔話はこれくらいにして本題に入りましょう。この連載も来月で1年が経過します。そのまとめとして今回と次回、セカンドキャリア問題のおさらいをしたいと思います。
 これまで、セカンドキャリア問題の本質は指導者と、その指導方法にあると書いてきました。
 技術論に偏り過ぎて、心を育てることができない。社会に出ると考えない人間は成功できないのに、今何をすべきなのかを考える大切な時期に考えることを許さず命令ばかりしている。結果、考えることができない子供たちが育ってしまう……。ある意味で指導者の責任ではなく、それを正しいとしている日本の教育、指導方法が間違っているのかもしれません。そう思えば思うほど、書けば書くほど、そしてセカンドキャリアについて学べば学ぶほどその気持ちは強くなっていきました。

 

 たまに小学生や中学生が試合や練習をしているグラウンドに顔を出すことがあります。すべての場所でというわけではありませんが、間違いなく怒号が聞こえることの方が多い気がします。これは小中学生だけではなく、高校でも大学でもプロでも同じです。
「怒鳴ることが選手を伸ばす」というのが指導者の勘違いであることは第19回の原稿で書きました。
 そういう指導者に教えられる子供たちも不幸なら、そこに預けている親御さんにも申し訳ない気持ちになります。さらに言えばそういう教え方しかできない指導者にも同情してしまいます。

 

 では指導者は何を学べばいいのか? 技術論以外に絶対必要な知識はモチベーション理論だと考えています。
「有能感、自律性、関係性」を唱えた「認知的評価理論」、プロのチームでも注目している「目標設定理論」や「フロー理論」、少し古いですがモチベーションと言えばアメリカの心理学者であるアブラハム・マズローの「5段階欲求」など、こうしたことを少しでも学べば、間違いなく指導方法も変わるはずです。そうすれば結果的に子供たちへの接し方にも変化が起きることでしょう。

 

 これからの野球界のためには、「俺は難しいことはわからん」と言って学ばない人材ではなく、新しいことを学ぶ人が必要となります。自分が変わって学ぼうとせずに子供に「変われ!」と言っても説得力がありませんよね。子供たちを指導していて何が指導者冥利に尽きるかと言えば、大人になってから振り返って「野球をやっていて良かった」「あの指導者のお陰で常に考えて行動できるようになった」「目標に向け頑張るプロセスは野球も仕事も同じだから、違和感なく頑張れてる」と思ってもらえることでしょう。これが一番、指導者として嬉しい瞬間ではないでしょうか。

 

 もちろん勝つことを教えるのも大切なことだし、「負けて悔しいから頑張ります」という気持ちを子供に持ってもらうのも大切です。でも一番重要なのは、「指導者が勝ちたいから勝つことを覚えさせる」のではなく、「子供たちのために勝つことの大切さを教える」ことです。同じ勝つことでもそのアプローチで意味がまったく違ってきます。
 指導者のエゴで子供たちを振り回すのはそろそろやめて、大人になったときに自分の足でしっかり立ち、何事にも考えて立ち向かっていく人間を育てていく。このことを指導者の方々は忘れないで欲しいと思います。

 

 これらのことを踏まえつつ、次回は指導者のライセンス制度について提言させていただきます。

 

1600314taguchi田口竜二(たぐち・りゅうじ)
1967年1月8日、広島県廿日市市出身。
1984年に都城高校(宮崎)のエースとして春夏甲子園出場。春はベスト4、夏はベスト16。ドラフト会議で南海ホークスから1位指名され、1985年に入団し、2005年退団。現在、株式会社白寿生科学研究所人材開拓グループ長としてセカンドキャリア支援を行なっている。

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