最後にお会いしたのは3年前だった。当時携わっていたFC琉球絡みのことで相談に乗っていただいたのだが、出前のウナギをご馳走になりながら聞いた一言が忘れられない。

 

「発足時に効果的だったやり方が、いまでも効果的とは限らんのだけどなあ」

 

 多くの関係者が「この人がいなければJリーグはなかった」と評する木之本興三さんが亡くなられた。若いころ、こてんぱにやられた麻雀の借りを返す機会は、これで永遠に失われてしまった。ご冥福をお祈りしたい。

 

 だが、もしごく最近のJリーグでのニュースが木之本さんの耳に届いているとしたら、おそらくはニヤリとされているのではないか。ここしばらく「身の丈にあった経営」とやらが絶対正義だったJリーグに、新たな動きが増えてきているからである。

 

 中でもドイツから飛び込んできたポドルスキの神戸行きにまつわるニュースには、多くのファンも目を見張ったのではないか。まだ正式に決まったわけではないようだが、そもそも、ドイツのメディアがビッグスターの移籍先として日本のクラブ名をあげるのは、いつ以来のことだろう。

 

 クラブW杯で鹿島がJのレベルを証明し、移籍の理由として治安の良さをあげたポドルスキの言葉が紹介される――。

 

 いまや欧州で欧州では、アジアと言えばカタールと中国をイメージする代理人がほとんどの中、ここから少しずつ流れが変わっていくかもしれない。

 

 何より嬉しいのは、獲得に名乗りをあげたJのクラブが神戸だった、ということである。ナビスコ杯での大分のような例外はあったが、基本、発足以来のJのタイトルは、オリジナル10プラス旧日本サッカーリーグ(JSL)時代からの名門によって独占されてきた。新参者が頂点に立つのはどこの世界でも簡単なことではないが、Jの場合、特にその傾向は強かった。

 

 だから、昨季のホーム最終戦で三木谷オーナーが「来年は優勝します!」とファンの前で宣言し、ここにきて超大物の獲得に成功しようとしているのは、Jの歴史に照らし合わせても例を見ない事例である。

 

 ポドルスキ獲得か、という一報にかき消されてしまったが、鳥栖が古巣との獲得競争に競り勝ち、ベルギーから小野を獲得しそうだというのも、とてつもないビッグニュースである。鳥栖が、マリノスを条件面の提示で上回る? 一昔前ならありえなかったことが、最近のJリーグでは急速に増えてきている。海外だけでなく、国内の移籍市場がかつてないほどに活性化しているのも、喜ばしい現状だ。

 

 唯一気がかりなのは、現時点になってもなお、新シーズンの放送形態がはっきり見えないこと。最低でも去年までと同程度の視聴環境が維持されなければ、せっかくの新しい時代も台無しである。

 

<この原稿は17年1月19日付『スポーツニッポン』に掲載されています>


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