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(写真:観客席からも9度目の優勝を祝福され、手を挙げて応える水谷)

  全日本卓球選手権最終日が22日、東京体育館で行われ、男女シングルス2種目の優勝者が決まった。男子シングルスは水谷隼(beacon.LAB)が吉村和弘(愛知工業大)を4-1(9-11、11-7、11-8、13-11、11-6)で破った。4連覇達成の水谷は同種目9度目の天皇杯獲得で、歴代最多優勝記録を更新した。女子シングルスは平野美宇(JOCエリートアカデミー/大原学園高)が石川佳純(全農)を4-2(11-6、12-10、8-11、11-9、9-11、11-6)で下し、初優勝。16歳9カ月の平野は佐藤利香の持つ17歳1カ月の最年少優勝記録を塗り替えた。

 

 同日、日本卓球協会は理事会を開き、5月開幕の世界選手権個人戦(ドイツ・デュッセルフドルフ)の日本代表選考を行った。男子シングルスは水谷、丹羽孝希(明治大)、松平健太(ホリプロ)、村松雄斗(東京アート)、張本智和(JOCエリートアカデミー)が代表入り。女子シングルスは石川、平野美、伊藤美誠(スターツSC)、加藤美優(吉祥寺卓球倶楽部)、佐藤瞳(ミキハウス)が選ばれた。男子ダブルスは大島祐哉(ファースト)&森薗政崇(明治大)組、丹羽&吉村真晴(名古屋ダイハツ)組。女子ダブルスは石川と平野美が組み、伊藤は早田ひな(希望が丘高)とのペアに決まった。混合ダブルスは吉村真&石川のペアと田添健汰(専修大)&前田美優(日本生命)ペアが選出された。

 

 男子シングルスは“水谷無双”

 

 今年も天皇杯は水谷の手に渡った。リオデジャネイロ五輪で2つのメダルを獲得した不動のエースが、4年連続9度目の王座に輝いた。「初優勝の時から狙っていた」という男子シングルスでの歴代最多優勝を成し遂げた。

 

サーブを打つ水谷

(写真:得意のサーブも効果的だった)

 準決勝は平野友樹(協和発酵キリン)に2ゲームを先取される苦しい展開だった。0-2と劣勢に追い込まれた時には「頭が真っ白になった。負けも覚悟した」という。それでも東京体育館に詰めかけた観客の声援に奮い立つ。「“ここからだ”と自分に言い聞かせました」と反撃を開始。優位に試合を進めることができたはずの対戦相手の平野友は「攻めている気がしなかった」と振り返る。水谷は4ゲームを連取し、逆転勝ちを収めた。

 

 辿り着いたファイナルは、これで11年連続の進出だ。「勝ち方は誰よりもわかっている。自分に負けないように最高の試合をしたい」との気持ちで臨んだ。一方、吉村和は全日本の決勝は初の大舞台だ。水谷はチキータ(バックハンドで横回転をかける返球)を武器にする20歳の若手に対しても警戒を緩めることはなかった。

 

返球する水谷

(写真:この日もダイナミックにコートを駆け回った)

 第1ゲームは序盤に5点をリードされた。水谷は3-9から5連続ポイントで迫ったが、9-11で落とした。準決勝同様に出だしが悪くてもひっくり返せる底力がある。コート狭しと動き回り、吉村和の打球に反応し続ける。次第に水谷のペースへ。第2ゲームは11-7、第3ゲームは11-8と取り返し、逆転してみせた。

 

 迎えた第5ゲームで一時は3-7と突き放されても、連続得点でひっくり返す。10-10で珍しくサービスミスが飛び出したが、デュースの末、13-11でモノにした。第6ゲームは相手を圧倒し、11-6でもぎ取った。「最後までサービスをコントロールして、積極的にプレーできた」ことを勝因に挙げた。

 

 日本のエースはリオデジャネイロ五輪で団体銀メダルに貢献。個人でもシングルスで銅メダルを獲得した。周囲からの注目度も上がり、期待値は膨らむ。これまでの全日本以上にプレッシャーも大きかったはずだ。水谷は「勝つことが当たり前だと思われている。ハイリスクノーリターン」の中で、栄冠を勝ち取った。

 

 11年連続ファイナリストとなったが、第一人者として自らを脅かす存在がいない日本の卓球界に憂いてもいる。「他の選手とは圧倒的な差がある」。王者として臨む全日本でのプレッシャーは半端ではないという。「ベストパフォーマンスではできていない」中で常にタイトル争いを演じてきた。「早く僕から優勝を奪い取ってほしいですね」とのコメントは卓球界のことを思い、常に発信してきた水谷らしかった。

 

 これからも自身が結果を持って、日本卓球界を牽引していく姿勢は変わらない。5月にはエースして世界選手権に臨む。世界選手権のシングルスではまだ表彰台に上がったことがない。「中国選手を破って、メダルを獲得したいです」と水谷。“卓球王国撃破”を誓って、6100人の観客を大きく沸かせた。

 

  平野、女子のエースにリベンジ果たす

 

喜ぶ平野美宇

(写真:優勝が決まって思わず歓喜のガッツポーズ)

 2年連続同一カードとなった女子シングルスは、平野美が石川にリベンジを果たした。ともに準決勝で苦手とするカットマンをストレートで退けて決勝へとコマを進めた。現在日本のエースとして君臨する石川と次世代のエース候補・平野美の対決は熱戦が期待された。

 

 4連覇が懸かっていた石川に対し、平野美は「向かっていくだけ」とチャレンジャーの姿勢で挑んでいった。リオデジャネイロ五輪の代表選考では惜しくもメンバーから漏れた。それだけに今大会に懸ける想いは強かった。「リオに行けなくてすごく悔しかった。絶対優勝したかった」。昨年10月には日本人初のW杯制覇を果たすなど、着々と実力をつけていた。

 

 リベンジに燃える平野は「去年負けた原因は出だしが悪かったので、反省を生かした」とスタートから攻めた。「あれだけ向かってこられると難しい」と、受けて立つ石川が口にするほどだった。両ハンドの強打は威力十分。ウエイトトレーニングを増やし、足腰を鍛えた成果は打球に表れていた。「誰にも負けない練習してきた」と自負する平野美は11-6で第1ゲームを先取した。

 

 第2ゲームはデュースまでもつれたが、「自分は向かっていくだけ。緊張せず、意識せず戦った」と平野美が攻めの姿勢を貫いた。12-10で取って、2-0とリードした。第3ゲームは8-11で落としたものの、石川が勢いに乗ることはなかった。ここまでガンガン向かってくる平野美に気圧されたのか、石川はミスが目立つ。第4ゲームは石川が9-10の場面で3球目攻撃をミスショット。ゲームカウントは平野美の3-1。9-11で女王は後がなくなった。

 

返球する平野美宇

(写真:得意のバックハンドだけでなくフォアでもいいレシーブが見られた)

 第5ゲームは平野美が1-2から7連続ポイントで一気に突き放す。このまま畳み掛けたいところだったが、優勝を意識して硬くなったのか逆転を許してしまう。このゲームを9-11で失う。それでも「プレー的には悪くなかった。気持ちを切り替えて頑張ろうと思った」と引きずることはなかった。

 

 平野美は第6ゲームの出だしに4点を奪い、常にリードする展開を作った。「両サイドハンドでフルスイング。攻めの姿勢がずっと続いていた」と石川も受け身に回らざるを得ないほどだった。サーブレシーブの場面でもリターン一発で決めにいくなど、強気の卓球で押し切った。7-6から4連続ポイントでカタをつけた。

 

 優勝が決まった瞬間、涙を流して喜んだ平野美。大会前から「優勝したい」「石川さんを倒したい」と公言しており、まさに有言実行したかたちだ。狙っていたという最年少優勝記録も更新して、「歴史に残ってうれしい」と笑顔を見せた。今後は代表に入った世界選手権を含め、国際大会の出場機会も増えていくだろう。「これからは日本のエースと言われるように頑張りたい」。殊勲の16歳は更なる飛躍を宣言した。

 

(文・写真/杉浦泰介)