驚いた。色んな意味で。柴崎の移籍について、である。

 

 まず驚いたのは、最終的に落ち着いたのが2部のテネリフェだったということ。まさか、わたしが新婚旅行で行った島を選ぶとは……なんてことでは全然なく、2部のチームが獲得に乗り出したこと自体に驚いた。

 

 これが百歩譲って、ドイツにおける昨季までのライプチヒのような、下部リーグに属してはいるけれど、1部のトップクラスに負けないほど潤沢な資金を有しているというのならばまだわかる。だが、普通の2部のクラブは、レアル・マドリードから真剣勝負で2点を奪った攻撃的な選手を獲得しようとは思わないし、そもそも、獲得しようという発想自体がない。できるはずがない、と思い込んでいる。

 

 だが、世界のどの国よりもレアルのすごさを知っているはずの、1部ではない2部のチームが獲得に乗り出し、そして成功した。初出場のカメルーンやアルジェリアが大暴れした82年のW杯スペイン大会以降、スペインのクラブではそれまで皆無だったアフリカの選手が急速に増えていくが、先鞭をつけたのは、資金力で劣る小さなクラブだった。

 

 柴崎とテネリフェ――。ようやく日本人もそこまで来たのか、思えば感慨深く、あれから30年以上も遅れてか、と考えれば愕然ともする。

 

 だが、何といっても驚いたのは、移籍先が2部と聞いて憤然としている自分に対して、だった。

 

 小倉隆史のオランダ2部エクセルシオールへのレンタル移籍が決まった時は興奮した。本田圭佑がオランダ2部のフェンロにいても、不満などはまったくなかった。そこで活躍しているというニュースは、純粋に期待だけを募らせてくれた。

 

 あのころのオランダ2部と、いまのスペイン2部。どれだけ偏った見方をしても、後者のレベルが段違いで下、とは考えにくい。だが、仮に柴崎がテネリフェで大活躍をし、途中加入ながら2部のMVPあたりに選出されたとしても、たぶん、わたしは喜べない。

 

 当然だな、と思うだけで。

 

 個人的な印象を言わせていただくと、リーガ・エスパニョーラは、欧州の主要リーグの中でもっとも1部と2部の違いが歴然としているリーグである。この国の2部に、華麗さはない。あるのは激しさ、汚さといった、スペインが世界的な尊敬を勝ち得る以前のサッカーである。柴崎のようなタイプにとっては、決して簡単なリーグではない。

 

 だが、そのことを念頭に置いたうえでなお、柴崎ならば活躍して当然、いや、しなければ話にならないとすでに思い込んでいる自分がいる。ついこの間まで、日本人選手がブンデスリーガ2部に移籍しても何とも思わなかったのに!

 

 奥寺康彦さんが切り開いた欧州への道は、どうやら、新しい次元に突入した。ファンもメディアも、そして選手も、海外でプレーするだけで満足できる時代は、終わったのだ。

 

<この原稿は17年2月2日付『スポーツニッポン』に掲載されています>


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