2016年のサッカーシーンを振り返る上で、最もトピックだったのが暮れのクラブW杯で、欧州王者のレアル・マドリードを追い詰めた鹿島アントラーズの奮闘である。

 

 

 簡単に試合をおさらいしておこう。前半9分、FWカリム・ベンゼマのゴールで先制した時にはレアルの楽勝かと思われた。

 

 ところが44分、後半7分に鹿島のMF柴崎岳が立て続けにゴールを決め、試合を引っくり返す。

 

 鹿島有利の流れを変えたのは一本のPKだ。13分、DF山本脩斗がFWルーカス・バスケスを倒したとしてザンビア人審判はPKを取った。

 

 鹿島にとってもうひとつの不利益は45分の判定だ。自陣右サイドでFW金崎夢生がDFセルヒオ・ラモスに背後から足を掛けられた。ラモスはすでにイエローカードを1枚もらっている。誰しもがラモスの退場を確信したが、審判はカードを引っ込めた。

 

「これでレアルが負けたら大変なことになる」と御身を案じたのだろうか。

 

 地力に勝るレアルは延長で輝きを取り戻した。FWクリスティアーノ・ロナウドの2ゴールは、日本流に言えば“針の穴を通す”ものだった。さすがにバロンドールに4度選ばれるだけのことはある。

 

 大善戦の立役者が2ゴールをあげた柴崎なら、黒衣は粘り強い守備でレアルの攻撃の芽を摘み続けたDFの昌子源だった。

 

 とりわけ、ベンゼマに対するマークは見事だった。ある時はゴール前、胸でトラップした瞬間を狙ってボールをカットし、またある時は体を寄せてフリーでのシュートを阻止した。

 

 この試合を見ていた元日本代表DFの加藤久は「日本代表のDF吉田麻也と遜色ないプレーをしていたね」と褒めていた。

 

 鳥取の米子北高から11年に鹿島に入った昌子がセンターバックに定着したのは4年目の14年からである。15年からは元日本代表の秋田豊や岩政大樹が背負っていた「3」を受け継いだ。

 

 身長182センチ、体重74キロの偉丈夫。屈強なフィジカルや空中戦での強さが持ち味だ。

 

 Jリーグ草創期、鹿島のセンターバックを務めた大野俊三は「クラブW杯でのMVPは昌子です」と前置きして、こう語った。

 

「クレバーな判断で相手の攻撃を先読みし、対峙するFWを潰していた。(センターバックにとって)必要なのは、勝つために何をすべきか、何を切り捨てるかの判断。昌子には、それができる。世界のトッププレーヤーとのガチンコ勝負は、彼をいっそう成長させてくれるはずです」

 

 昌子が次に目指すのは日本代表のスタメンだろう。14年からコンスタントに代表に招集されるようになったが、代表の出場歴はわずか2試合だけ。

 

 クラブW杯での活躍は日本代表監督のヴァイッド・ハリルホジッチの目にも焼き付いたはずだ。

 

 昨年の12月で24歳になったばかりの成長株。レアル戦をステップボードにするとは“持っている男”である。

 

<この原稿は『サンデー毎日』2016年2月15日号に掲載されたものです>

 


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