ドイツにはない。スペインにもない。イタリアにも、フランスにも、ポルトガルにも、オランダにもないのに、イングランドにはある。

 

 何か、お分かりだろうか。

 

 この欄でも何回か書いてきたが、わたしは、GKとはその国の育成能力が如実に表れるポジションだと思っている。どれほど育成システムが成熟しようが、マラドーナやペレを育てることはできないし、また、ペレやマラドーナほどの才能であれば、どんな環境で育っても必ずや頭角を現したことだろう。

 

 GKは違う。育成システムが成熟しなければ、優れたGKは出てこない。優れた育成システムの恩恵がなければ、ノイアーとて凡庸な存在で終わっていた可能性がある。なぜか。他の10人と違い、GKだけは徹底した、そして計画的な反復練習が求められるポジションだからである。成功する上で感性や才能の占める割合は、フィールドプレーヤーよりもずっと少ない。

 

 20世紀のほぼすべての期間において、スペインやフランス、さらには南米のGKのレベルは、ドイツやイングランド、イタリアといった“GKファクトリー”とは比べるべくもなかった。フィールドプレーヤー同様、感性の赴くままプレーする選手も多く、大抵の場合、ハイクロスの処理などは気の毒になるほどお粗末だった。

 

 だが、バックパスを手で扱うことの禁止などによってGKの重要度が高まってくると、このポジションを変人扱いすることの多かったラテンの国々でも、改めてGKの育成に乗り出した。たった11分の1のポジションのためにチームが力を注ぐようになれば、当然、11分の10を占めるマジョリティーからも「自分たちの方にも」という要求が出てくる。結果、GKの育成に力を入れ始めた国は、代表チームの競争力も増していった。スペイン、フランスなどはその象徴的な例といっていい。

 

 だが、トップクラスのレベルのリーグを保持する欧州主要国の中で、一つだけ、GKの育成に無関心だった国があった。

 

 イングランドである。

 スポナビのトップに掲載されている主要8カ国の中で、自国のGKが一人もいないクラブがある国、それがイングランドなのだ。

 

 だからなのか。あれほど目の肥えた観客に支えられ、あれほどの隆盛を誇りながら、プレミアリーグの成功はイングランド代表の成績にまったくといっていいほど結びついていない。ブンデスリーガとドイツ代表、リーガとスペイン代表に比べると、信じられないほどその関連性は薄い。

 

 非常に心配である。

 

 今年もまた、Jリーグには韓国人のGKが増えた。韓国人の方が、体格がいいから? 違う。日本の育成の現場が、いつの間にか韓国に後れ取っているからだ。少なくともプロ野球の世界からは、日韓の体格格差など聞いたこともない。

 

 GKが育たない国は、代表チームも勝てなくなる。日本だけは例外だと言い切る自信が、わたしはない。


<この原稿は17年2月16日付『スポーツニッポン』に掲載されています>


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