170227最終回 名木利幸は複雑なサッカーのルールや仕組みを歯切れの良い言葉に冗談を織り交ぜて説明するのがうまい。副審としての経験と知識、そして彼の人柄がそうさせるのだろう。そんな名木に、科学の力で誤審を防ごうとする近年の傾向について訊いた――。

 

<2017年2月の原稿を再掲載しています>

 

「テクノロジーで問題が解決するのであれば、僕はもちろん、おそらくほとんどの副審が歓迎しますよ」

 

 名木の返答はさっぱりしたものだった。ボールがラインを割ったか、否か。非常に際どい場面がサッカーにはたくさんある。後に誤審だったと分かることも少なくはない。国際サッカー連盟(FIFA)は問題解決のために、ゴールラインテクノロジー(GLT)を開発した。GLTの仕組みはこうだ。

 

 複数の高性能カメラでいろいろな角度からボールを追う。ゴールラインをボールが通過すると1秒以内に審判が腕に装着している受信機が振動し「GOAL」と表示される。このシステムは名木が副審を務めた2014年のブラジルW杯でも採用された。

 

「サッカーにおいてゴールの重要性は非常に高い。GLTがあると、副審としてもストレスがないんです」と名木は語る。もちろん、機械のことだ。時には不具合が生じることもあるだろう。

 

 名木はブラジルW杯開幕前に審判団の打ち合わせの一部を教えてくれた。

「FIFAの担当審判が全員、マラカナンスタジアムに集まって、GLTのレクチャーを受けました。“仮に1メートルも2メートルもゴールラインを割っているのに、GLTが作動しなかったからといって、ノーゴールというのは違う。そこは人間が判断できるだろう?”と。そういう共通認識のもとでブラジルW杯は行われました」

 

 選手は試合前にウォーミングアップを行う。このタイミングで審判団もアップをする。名木は「GLTの受信機は外してアップに行くように」と指導された。「選手がシュート練習をするでしょう? そうすると、ずっと受信機が振動するんです。だから全然アップに集中できない(笑)」。GLTは端末ごとにスイッチを切れないという。

 

うまく改善できれば、ビデオ判定は導入すべき

 

 昨年暮れのクラブW杯では、新たにビデオアシスタントレフェリーシステムが試験的に導入された。簡単に言えば、ビデオ判定だ。初めてビデオ検証によるジャッジが下されたのは、準決勝の鹿島アントラーズ(開催国代表)対アトレティコ・ナシオナル(南米代表)戦だった。前半28分、敵陣ゴール付近での鹿島のセットプレー時である。ペナルティーエリア内でDF西大伍が相手マーカーに足を引っかけられて転倒したのだ。西は守備位置に戻りつつ、主審や副審にファウルをアピールしたが、認められずにプレーは続けられた。

 

 その1分後である。主審は試合を止めてピッチ外のモニターエリアへ走った。映像を確認後、鹿島にPKを与える。このPKをFW土居聖真が決めて鹿島がゴールを奪ったのだ。

 

 名木はこの制度について「判定結果を伝えるタイミングが難しい」と言いつつも、「(判定結果が下されるのに)観る側がタイムラグがあることを理解していればアリなのではないでしょうか」と肯定的な意見を述べた。

 

「野球やテニスなど、ラリー性の強い競技はプレーが止まりやすい。サッカーの場合は一回プレーを続行しつつ、“あのプレーはどうなのか”と判定に入る。鹿島のあの場面は、比較的早く対応した方です。今後、うまく改善できれば使うべきだと思います」

 

 試合は鹿島が3-0で、アジアクラブ初の決勝進出を果たした。

 

 名木はクラブW杯準決勝のビデオ判定の一件について「正しい判定で、勝利すべきチームが勝ったというのは素晴らしいことです」とつぶやいた。テクノロジーが正しい判定を導いた。“誤審もサッカーのうち”なんて言葉はもう、過去のものになる。

 

(おわり)

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170206名木さんプロフ名木利幸(なぎとしゆき)プロフィール>

1971年11月29日、高知県安芸市生まれ。96年に1級審判資格を取得し、Jリーグで副審を務める。2003年から国際副審として国際サッカー連盟(FIFA)に登録。09年には日本サッカー協会(JFA)プロフェッショナルレフェリー。14年FIFAワールドカップでは開幕戦のブラジル対クロアチアの試合を担当した。16年7月9日のJ1セカンドステージ第2節、浦和レッズ対柏レイソル戦でJ1通算副審担当試合数が300に到達。16年Jリーグアウォーズにて最優秀副審賞を受賞。高知県の観光特使も務める。

 

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(文・写真/大木雄貴)

 

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