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(写真:大和トレーナーに肩車され、勝利をアピールする山中)

 2日、ボクシングのWBC世界バンタム級タイトルマッチが東京・両国国技館で行われた。王者の山中慎介(帝拳)は挑戦者の同級6位カルロス・カールソン(メキシコ)に7回57秒TKO勝ちで、12度目の防衛を果たした。具志堅用高(元WBA世界ライトフライ級)が持つ日本人王者の連続防衛記録まで、あと1と迫った。山中の通算戦績は29戦27勝(19KO)2分けとなった。

 

 この日の両国に座布団が舞うことはなかった。王者の山中は金星を許すことなく、カールソンの挑戦を7ラウンドで退けた。

 

 待望の日本人横綱誕生に沸いている両国国技館だが本日の主役は関取ではなく、引き締まった痩身のボクサーだった。満員御礼とはいかなかったものの、平日の夜開催にもかかわらず7500人の観客が集まった。

 

 12度目の防衛に臨む山中陣営。お馴染みの緑のベルトを掲げて入場した。挑戦者にとってベルトは懸賞だ。山中は世界中から首を狙われる存在となるはずだが、強すぎるゆえ対戦相手が見つかりにくいのが実情である。

 

 序盤は静かな立ち上がりでスタートした。山中が終始リードする展開。4ラウンドを終えての公開採点ではジャッジの1人が39-37、2人が40-36で王者を支持した。

 

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(写真:「序盤は体重が乗らず上ずっていた」と語ったが、徐々に修正していた点は流石だ)

 試合が大きく動いたのは5ラウンドからだ。“神の左”と謳われる山中のレフトが炸裂した。47秒、リングのほぼ中央で左がカールソンの顔面を襲う。尻餅をつく挑戦者。山中は立ち上がったカールソンを仕留めにラッシュを仕掛けた。ロープ際に追い込んで2度目のダウンを奪った。

 

 だが再び立ち上がったカールソンの反撃に遭う。山中は捨て身の右フックを食らい、ヒヤリとする場面も見受けられた。ラウンド終盤はクリンチも織り交ぜて凌いだ。勢いに乗る挑戦者に6ラウンドは押し込まれたが、山中はまたしても左で相手をダウンさせた。

 

 決着は7ラウンドだ。左を当ててグラつかせると、4度目のダウンを奪った。それでもタフなカールソンは立ち上がる。「勝ちたいという思い、メキシコ人としての魂が立ち上がらせた」とカールソン。一方の山中は「倒れても起き上がってくるのは想定内だった」と冷静だった。

 

 最後はガードの間を射抜くような左ストレートを挑戦者の顔面に突き刺した。カールソンがキャンバスに沈んだのは5度目。流石にレフェリーは両手を振って、試合を止めた。山中は12度目の防衛に成功した。

 

「まだまだ反省の多い試合」と語った山中だが、終わってみれば“横綱相撲”だったと言っていいだろう。5ラウンドに反撃を食らいながらも、ズルズルと引きずらなかった。セコンドについた大和心トレーナーも「流れが変わりかけたのに軌道修正して倒したのはすごい」と称えた。

 

 これで29戦無敗。山中がWBCのベルトを腰に巻いてから5年4カ月が経とうとしている。「毎試合毎試合、期待に応えようとするプレッシャーが自分を強くさせてくれる」。記者に囲まれながら控室でコメントする姿には“横綱”の風格が漂っていた。

 

(文・写真/杉浦泰介)