ワンストップとオール・イン・ワン。これがこの構想のコンセプトだろう。

 

 安倍晋三首相は24日に行なわれた未来投資会議でスタジアムやアリーナを「スポーツ観戦だけでなく、市民スポーツ大会、コンサート、物産展などが開催され多様な世代が集う地域の交流拠点に生まれ変わらせる」(首相官邸HPより)と明言し、「2025年までに20カ所整備する」(同)と踏み込んだ。

 

 首相の看板的経済政策であるアベノミクスには、かねて「中央重視」の批判がつきまとっている。人口減少に直面し、活気を失いつつある地方を救う手立てはあるのか。いわば「ローカルアベノミクス」の目玉のひとつとして浮上してきたのがスタジアム、アリーナの整備構想という寸法である。

 

 基本的に私はこの構想に賛成である。だが、従来型の発想で事を進めると列島中にホワイトエレファント(無用の長物)やブラックスワン(奇妙なシロモノ)が林立しかねない。行政サイドにはハコモノに対する意識改革が求められる。

 

 たとえばブンデスリーガに所属するボルシア・ドルトムントの本拠地ジグナル・イドゥナ・パークの平均観客動員数は8万1178人。18年連続でリーグ最多の平均動員数を誇っている。スタジアムには託児所がある。若い夫婦は、しばしの間、ここに子供を預け観戦を楽しむ。3歳から6歳までは無料だ。

 

 視覚障がい者には専用のヘッドホンが配られる。微に入り細を穿つ実況で、ハンディキャップを感じさせない。行き届いたホスピタリティが観客を満足させる。

 

 国内においては広島の本拠地マツダスタジアムの評価が高い。収容人数3万3000人のうち車いす席は142席。0.43%という数字は12球団の本拠地の中でトップだ。さらには人工肛門や人工ぼうこうを造設した人のためのオストメイト対応型トイレも12カ所設けている。

 

 今やスタジアムやアリーナは、欠かすことのできないまちのインフラである。託児所のみならず医療・介護施設や商業施設も併設することで試合がない日でも利用頻度が高まり、コストセンターからベネフィットセンター、そしてプロフィットセンターへの直筋を描くことが可能となる。将来においては老若男女、誰もが受益者となる施設づくりこそが望まれる。

 

<この原稿は17年3月29日付『スポーツニッポン』に掲載されています>


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