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Photo by JFFID

 「もうひとつのワールドカップ」と呼ばれるイベントがあります。サッカーのワールドカップと同じ年、同じ開催国(*注1)でその1カ月後に開かれる、知的障がい者サッカーの国際大会のことです。


 昨年春、日本障がい者サッカー連盟が設立されました。日本サッカー協会の呼びかけで7種類の障がいのある人のサッカー競技団体が集い、立ち上がりました。切断障がい、脳性麻痺、精神障がい、視覚障がい、聴覚障がい、電動車椅子、そして知的障がい、この計7つの団体です。

 日本だけでなく世界各国にこうした障がい者サッカーの団体があります。見えない、走れないなどの障がいがあってもサッカーがしたい。世界中にそういう気持ちを持ったサッカーを愛する人がいる証左です。

 

 先日、知的障がい者サッカー連盟理事長の天野直紀さん、同理事の斎藤紘一さんにお会いしました。天野さんが知的障がい者サッカー連盟に関わるようになったきっかけは、2006年のW杯の試合をビデオで見たことでした。選手たちのプレーは、ひたむきで純粋。汚いところやずるいところのないサッカーにすぐに魅了されたと言います。斎藤さんもしかりです。

 

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 さてパラスポーツの多くは、専用の道具や、特別なルールがあります。でも知的障がい者サッカーは多くの方が親しんでいるサッカーそのものです。障がいの有無に関わらず一緒にプレーできるのも大きな特徴のひとつで、地域のチームでは一緒に練習しているところも少なくありません。

 

 知的障がい者サッカー連盟の加盟者数は全国で約5000人。パラスポーツの団体競技では断トツの数字です。この5000人余りの会員を持つ連盟の仕事は、全国大会や日本代表合宿の開催、日本代表チームの編成と国際試合への派遣、さらに助成金の申請、スポンサー集め、そして世界団体や日本の統括団体との折衝など大小様々、多岐にわたります。天野さん、斎藤さんはこれらのことに無償で取り組んでいます。理由は人件費が捻出できないからです。もちろん2人とも霞を食べて生きているわけではありません。時間調整ができる仕事に転職して連盟を支えています。

 

 連盟のウェブサイトの連絡先には「スタッフは常駐しておりませんのでお問い合わせ等はメールでお願い致します」とあります。パラスポーツ団体ではよく目にする表記ですが、同連盟だけでなくどこもお金も人も足りないのが実情です。今年に入って初めてコピー用紙とトナーを連盟の経費で捻出したと聞きました。これまではそれすらも持ち出しで、まさに手弁当、手づくりで連盟を運営しています。泣けてきそうな話です。

 

 さて来年はサッカーW杯が開催されます。つまり「もうひとつのワールドカップ」の開催年ということですが、今回から大会のシステムが変更になりました。前回まではオープン参加の大会でしたが、初めて予選システムを導入したのです。勝者が集まって開催する、より本家W杯に近いものに進化しました。アジア予選は今年11月に開催されます。

 

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 前回、ブラジル大会の遠征の際はTシャツを販売して資金を集めましたが、それでも選手1人あたり30万円の自己負担があったそうです。天野さん、斎藤さんは「ロシア大会への遠征費用はぜひ全額を連盟で持ちたい」と願っています。

 

 2人はおっしゃいます。「知的障がい者サッカー、一度見てもらったら、その魅力がすぐに分かります。どれだけ純粋なサッカーなのか、それを確かめてみてください。そして18年のW杯に向けてTシャツを買って応援していただけたら嬉しいです」


 ぜひ一度、連盟のウェブサイトにある動画をご覧になってください。
日本知的障害者サッカー連盟 http://jffid.com/

 

*注1)次回2018年はW杯開催国ロシアの都合もありスウェーデンで開催される。

 

伊藤数子(いとう・かずこ)プロフィール>

新潟県出身。パラスポーツサイト「挑戦者たち」編集長。NPO法人STAND代表理事。スポーツ庁スポーツ審議会委員。東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会顧問。STANDでは国や地域、年齢、性別、障害、職業の区別なく、誰もが皆明るく豊かに暮らす社会を実現するための「ユニバーサルコミュニケーション事業」を行なっている。その一環としてパラスポーツ事業を展開。2010年3月よりパラスポーツサイト「挑戦者たち」を開設。また、全国各地でパラスポーツ体験会を開催。2015年には「ボランティアアカデミー」を開講した。著書には『ようこそ! 障害者スポーツへ~パラリンピックを目指すアスリートたち~』(廣済堂出版)がある。

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