一夜があけても、まだ意外な喜びが残っている。
タイの、何と手強かったことか。
17年3月28日のタイは、前回バンコクで戦った時のチームではなかった。日本と最終予選という舞台をリスペクトしすぎていたのが前回のタイだとしたら、今回の彼らは本気で日本を倒せると信じていたし、敵地での最終予選という状況にもまったく動じていなかった。過去、日本があれほど多くの決定機をタイに許したのは、わたしの覚えている限り、伝説の英雄ピアポンにハットトリックを食らったロス五輪予選以外にない。
このアジア予選ならば、日本を強くしてくれる。
ドイツが強いのは、ブラジルが強いのは、彼らの安住を許さないライバルたちが周囲に蠢いているからである。激戦の予選を勝ち抜くことが、そのまま本大会へ向けた最高の鍛錬となっているからこそ、黄金のW杯はこの2地域のみにとどまり続けている。
だから、これまでのアジアは、言ってみれば昔のスペインリーグのようなものだった。レアル・マドリードは強い。バルサも強い。だが、その他は? 上から下までレベルがギュッと接近したセリエAやブンデスリーガに比べ、リーグを勝つことによってえられる経験値が小さいのではないか。わたしはそんな風に感じていた。
ゆえに、クライフに惹かれた。
ただ勝つだけでなく、勝ち方に哲学を持ち込んだ彼の存在があったがゆえに、バルサは強くなり、結果的にスペインも強くなった。ならば、欧州や南米ほどには予選のレベルが高くないアジアを戦う日本も、哲学なり志のあるチーム作りをしなければならない、と。結果だけを追い求めるスタイルでは、結局、本大会で通用しないのだ、と。
ゆえに、ザッケローニやアギーレほどには、ハリルホジッチという監督を評価してこなかった。
だが、アジア予選の危険度が高まれば、話は違ってくる。
ドイツ代表のレーヴ監督は、就任当時もいまも、世界的な注目を集める存在とは言い切れない。少なくとも、グアルディオラ監督ほどには信奉者も敵対者もいない。それでも、鍛え抜かれた選手たちは、監督の手綱に頼りきることなく結果を残している。
日本も、アジアも、そういう時代が近づいてきたのかもしれない。
鹿島がクラブW杯で結果を残し、その自信がJリーガーたちに伝播していったように、ACLでムアントンが鹿島を倒したことが、間違いなくタイの選手に化学反応を引き起こしていた。4年後のアジア予選は、日本にとってもまったく油断ならないものになる。
代表監督に、哲学や志を求める必要のない時代が、到来するかもしれない。
アジアは勝てる。けれども、本大会が苦しい――。ハリルホジッチのやり方をみて、そう感じ続けてきたわたしだが、その考えが、いま大きく揺らぎ始めている。
<この原稿は17年3月30日付『スポーツニッポン』に掲載されています>
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