打高投低に拍車をかけるような米メジャーリーグ(MLB)のストライクゾーン変更案は、試合が大味になることに加え、試合時間がさらに長くなる恐れがある旨を、1カ月前に小欄で述べた。

 

 それを証明するような試合に、思いがけず遭遇してしまった。1日、マツダスタジアムでの広島-阪神戦だ。両チーム合わせて、出しも出したり28四死球(うち27が四球)。9回終了時点での26四球はプロ野球タイ記録だった。必然的に試合も長引く。9回終了時点で4時間56分、延長10回裏に広島がサヨナラ勝ちを収め、やっと時計が止まった。5時間24分。イヤホン越しに響いた中国放送の解説者・安仁屋宗八の締めの言葉が振るっていた。「もう声が出ません」

 

 中継の間、安仁屋はずっと球審のストライクゾーンの狭さを指摘していた。「今日の審判が毎試合(球審を)やったら、相当時間がかかりますよ」。テレビ中継では池谷公二郎が、はからずも同じ感想を口にした。「今日の(球審の)ストライクゾーンを見ていたら、球数が多くなるのも当然ですね」

 

 言うまでもなくストライク、ボールの判定は球審の専権事項である。9回までの四球数はともに13。どちらかに偏っていたわけではない。要するに、どちらに対しても平等に辛かったのだ。

 

「最初にストライクをとってくれないところは、ずっととってくれなかった」とは阪神のキャッチャー梅野隆太郎。バッテリーがストライクと判断した球がことごとくボールと判定されると、守備側もリズムを失う。目を覆いたくなるようなミスが続出し、いよいよ試合は収集がつかなくなってしまった。熱戦といいたいところだが、実態は乱戦だった。

 

 翌日、球場で話を聞くと、何人かのユニホーム組が同様の指摘をした。左打者のヒザ元、右打者のアウトローを「ことごとくボールにされた」というのだ。MLBのストライクゾーン変更案は、ヒザ頭の下のくぼみまでだった下限を、ヒザ頭の上まで2インチ(約5センチ)引き上げようというもの。皮肉にもMLBの新ストライクゾーン案を先取りしたゲームのように映った。MLB関係者が、ビデオでこのゲームを検証したら、きっとこう言うに違いない。「これはエイプリルフールの日の映像だろう」

 

<この原稿は17年4月5日付『スポーツニッポン』に掲載されています>


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