「鯉のぼりの季節まで」。広島を揶揄するフレーズの定番である。だが今季に限っては、そんな声はどこからも聞こえてこない。4月1日から13日にかけて1分けをはさんで10連勝。14日付け本紙1面の見出しは<広島V率100%>。年をまたいでもまだまだ「神ってる」ようだ。カープの67年の歴史の中で連覇は79、80年の1度きりだ。

 

 山本浩二、衣笠祥雄、ジム・ライトル、高橋慶彦、水谷実雄、水沼四郎…。メンバーは、ほぼ固定化されていた。それ以上に不動だったのが投手陣である。まずは先発陣。北別府学(79年17勝、80年12勝)、池谷公二郎(12勝、9勝)、山根和夫(8勝、14勝)、福士明夫(7勝、15勝)、金田留広(4勝、4勝)。中継ぎは大野豊(5勝、7勝)と渡辺秀武(2勝、3勝)。そして締めくくり役は不動の守護神・江夏豊(9勝22セーブ、9勝21セーブ)。勝利の方程式は2年続けて“鉄板”だった。

 

 79年は2位に6ゲーム差、80年は6.5ゲーム差。圧勝とは言わないものの、ペナントレースはともに完勝だった。にもかかわらず、球界に残したインパクトは圧倒的に79年の方が強い。近鉄との日本シリーズでの“江夏の21球”の印象が、あまりにも鮮烈だったためだ。実は80年も広島は近鉄と日本シリーズを戦い、前年同様、4勝3敗で頂点に立っている。このシリーズも熱戦続きだったが、その後、記憶をたぐるように費やされた言葉や文字の量は、前年の1割にも満たないのではないか。

 

 閑話休題。広島カープというチームの成功体験を踏まえれば、連覇の条件は盤石の投手陣が前提になると考えていた。ところが昨オフ、昨季10勝をあげた黒田博樹が引退。昨季の沢村賞投手クリス・ジョンソンとクローザー中崎翔太は現在、1軍選手登録から外れている。これで、なぜ10連勝なのか。

 

 2つの見立てがある。誤算だらけの投手陣で、これだけ勝てるというのは、若手の成長もありチーム全体が底上げされてきた証拠。前途は洋々――。これが1つ。2つ目は、いや方程式なき勝利の束は、いずれデフォルトの恐れあり。まだまだ先行きは見通せないというもの。今季の広島、その答えが出るのは「鯉のぼりの季節」が終わってからだろう。

 

<この原稿は17年4月19日付『スポーツニッポン』に掲載されています>


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