(写真:中継車内の様子。モニターウォールは自由にレイアウトが可能)

(写真:中継車内の様子。モニターウォールは自由にレイアウトが可能)

 テレビ中継を見ているはずなのに、スタジアムで試合を観ているような錯覚に陥る――。それが高画質の4K/HDR放送である。

 スカパー!は4月12日のYBCルヴァンカップ 横浜F・マリノス―ヴィッセル神戸戦で4K/HDR対応の中継車を使い、ライブ放送を行なった。

 

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 HDRは(High Dynamic Range)の略。簡単に言えば、映像の輝度を拡大できるということ。実際の光がテレビでも忠実に表現されるためより自然に近い、いや自然そのものの「光景」を映し出すことが可能となる。暗いところから非常に明るいところまで、目視可能な明暗差を自然な見え方に近づけて再現する技術である。

 

 たとえば昼間のサッカー中継では日なた、日陰の差があるとボールの回転が鮮明にならなかった。これがHDRになると日なたは白飛びせず、日陰もつぶれないために回転がくっきり見えることになる。自然に近い明るさによって、臨場感を楽しめるというわけだ。

 

 横浜―神戸戦で出動した中継車「SR-1」は、まるで“基地”のようである。

 全長11m、全幅2・495mの大型トラックで左右に拡幅可能。スカパー・ブロードキャスティング社としては初めての自社中継車でもある。スカパー!の早尻隆文技術本部長兼技術営業部長、牧野誠制作本部制作部長に話を聞いた。

 

――「SR-1」はまさに最新機器の集合体という感じを受けますが。

早尻: 主な性能としては、4Kのカメラを最大20台まで組み込むことができます。20台のスイッチングが4Kででき、3系統のスロー再生をつくることができます。

 

――3系統のスローというのは?

早尻: 分かりやすく言えば3つのカメラを入力して、記録しっ放しにします。出力のほうはプレイリストをつくる。スピードを上げたり、下げたりするシステムが3台あるということです。

 

――モニターには40個の画像がありますね。

早尻: カメラ20台、スロー再生3台のほかにCG(コンピューターグラフィック)が何台、外部の回線入力が何台と4Kベースで計40種類の信号をスイッチャーに取り組むことができます。

 

(写真:サイマル制作のために信号を監視するQC卓があるのが特徴だ)

(写真:サイマル制作のために信号を監視するQC卓があるのが特徴だ)

――HDRとは目視可能な明暗差を自然な見え方に近づけて再現する技術だと認識しています。この「SR-1」の中ですべて変換されているということでしょうか?

早尻: 過去に撮った試合の映像など4KやHD(ハイビジョン)を混在させながら制作することを想定しています。それぞれ4K/HDRのフォーマットにしたり、サイマル(併行制作)で4KのSDR(Standard Dynamic Range)、HDのSDRに変換しなければなりません。3つのプロセスを管理するために、マスターフォーマットを決めて一律変換しているのです。

 

――かなり専門的な話になってきますね。

早尻: 専門用語で恐縮ですが、そのフォーマットはS-LOG3/BT.2020と呼ばれています。

 

――その専門用語にはどのような意味があるのですか?

早尻: S-LOG3は明るさのダイナミックレンジの信号です。BT.2020は色の表現域、色の鮮やかさの規格。S-LOG3/BT.2020という2つの規格によって、充足できる信号に変換します。いくらか専門的な話になってしまいますが、これがないと(テレビに出る)色がメチャクチャになってしまうのです。この車があることで4K/HDR、4K/SDRを両立させることができるのです。

 

 作り手の表現方法の拡大

 

――4K/HDRと以前のブラウン管テレビではどのくらい明るさが違ってくるのでしょうか?

早尻: 明るさの単位で言うと、ブラウン管は100nit。今のHDR対応テレビは1000nitですね。

 

――10倍ですか。

早尻: 人間の目で言えば、10万nit。とはいえ、1000nitでも相当、人間の感性に近づいていると言えます。

 

(写真:前方にスイッチャー、ディレクター、CG担当が座り、中継をコントロールする)

(写真:前方にスイッチャー、ディレクター、CG担当が座り、中継をコントロールする)

――ニッパツ三ツ沢競技場で開催された横浜―神戸戦で何かHDR中継らしい演出はあったのでしょうか?

牧野: ナイターだったこの試合のファーストカットを、ランドマークタワーからズームバックしてスタジアムに寄っていくという画にしました。というのもHDではランドマークが暗くてはっきり見えずに光がつぶれてしまう。HDRだからこそ勝負できました。たとえば監督を撮るとどうしても奥のサポーターがぼやけて見えたりしましたけど、HDRでは両方がくっきり見えます。そういうトライをしていきたいと考えています。

 

――コアなサッカーファンの期待に応えることができるとすれば?

牧野: コアな方はピッチ全体が見えるほうがいい。ボールが動いた時に11人と11人がどういう動きをしているのか、どう連動しているのか。人も背番号もしっかり見えるので、そういったニーズにも応えられるんじゃないかと思います。一方で選手の表情を見たいというニーズもあります。引いた絵も寄った絵も、しっかりと見せていくことができればいいですよね。

 

――“引き”も“寄り”もニーズに応えていく難しさ、面白さがありそうですね。

早尻: サッカーの場合は野球と違って動きが止まらない。動的なものなので、カメラを引いたり、寄ったりしながら見せていく方が視聴者に伝わりやすいかもしれないなと感じています。4K/HDR放送になることで作り手側のいろんな表現方法の拡大につながっていけばと考えています。

 

 スカパー!は昨年4月から「スカパー!4K体験」でHDR放送の試験放送を展開し、今年3月から4K総合チャンネルでHDR放送をスタートさせてきた。準備万端でYBCルヴァンカップでデビューを飾ったと言える。

 

「スポーツ中継新時代」の幕が開けた。4K/HDR放送によって、スポーツがもっと身近な存在になることは間違いない。

 

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