(写真:千葉のホームではアリーナが赤く染まる)

(写真:千葉のホームではアリーナが赤く染まる)

 バスケットボールのチームファンを示す『Booster』(ブースター)という言葉は、「後押しする人」を意味する。文字通りブースターの声援が選手の背中を押し、チームに大きな力を与えるのだ。

 

 7日にレギュラーシーズンを終えた男子プロバスケットボールリーグ「B.LEAGUE」。各地区の順位も確定し、13日からは8チームによる初代王者をかけたチャンピオンシップ(CS)がスタートする。全日本総合選手権覇者の千葉ジェッツは東地区3位でワイルドカード上位によるCS進出を決めた。その実力もさることながら、千葉ジェッツのホーム平均観客動員は4500人を超え、リーグ断トツのトップだった。会場が赤く染まる船橋アリーナの光景は圧巻である。

 

 集客にこだわる理由

 

「集客に対する執念は強いと思います。お客さんが入っていないことは罪だという意識はどこよりも強く持っている」

 こう語るのは千葉ジェッツの島田慎二代表だ。12年に千葉ジェッツを運営する株式会社ASPEの社長に就任。一度は経営難に陥ったチームを再建した。

 

(写真:試合開始直前に立見席の行列ができる船橋アリーナ)

(写真:試合開始直前に立見席の行列ができる船橋アリーナ)

 2011年に創設された千葉ジェッツ。当初から人気チームだったわけではない。集客に本腰を入れ始めたのはB.LEAGUE参戦が決まったNBL最後のシーズン(2015-2016)である。島田代表によれば、それまでは「資金を稼ぎ、選手に投資する」というステージだった。昨シーズンからスタッフにチケット担当を補充するなどして、リーグNo.1の観客動員を記録した。ホームゲームの累計観戦者数は10万92人。bjリーグ・NBLを通して日本のバスケットボールチームで初の10万人突破を達成した。

 

「お客さんを呼ぶことに関して、バスケットボール界においてはかなり高いところを見ています。逆算して何が必要かということを緻密にやっている。常に修正し、改善しながら、スタッフがやるべきことを皆が遂行しています」と島田代表。今季も順調に集客し、B.LEAGUE開幕、チームの好成績も手伝って累計観戦者数は13万5000人を超えた。

 

 ブースターにとっても千葉ジェッツは特別な存在だ。船橋市にある「味楽酒肴ききょう」の店主・山田浩氏は千葉ジェッツ発足当時からのブースター。元々は千葉ロッテマリーンズのファンだった。きっかけはプロ野球のシーズンオフの暇つぶし。初めて船橋アリーナに足を踏み入れ、試合を見た時のバスケットボールのスピード感、エンターテインメント性に魅了された。今となっては完全に千葉ジェッツ中心の生活。定休日のホーム戦はほぼ全てアリーナに足を運んでいる。そんな山田氏とって千葉ジェッツは「my life」そのもの。千葉ジェッツと共に歩く人生が、彼の生きがいなのだ。

 

(写真:派手な演出で観客を楽しませる趣向も凝らしている)

(写真:派手な演出で観客を楽しませる趣向も凝らしている)

 営業努力だけでは観客席は埋められない。島田代表はチームの人気の理由をこう分析している。

「我々は“また観に来たい”と思わせる魅力あるチームにすることを意識しています。ジェッツのバスケはアップテンポで観ていて面白い。今年から取り組んでいるスタイルをしっかりとお見せできていることと、結果が出ているが集客にもつながっているのだと思います」

 

――試合以外でもエンターテインメント性を追求してきたのか?

「いい試合をするのは選手たちがやるべきこと。フロント・スタッフとしては会場に来て、試合以外のところでも楽しんでもらう。それは絶対に必要なこと。1枚のチケットをどこまでプライスレスにできるか。我々は“もっと魅力的なバスケットボール”はもちろん、“もっとエンターテインメントな照明、音響”を求める。その総合力が価値だと思うんです。総合力でお客さんを喜ばせるという視点が必要。いかに非日常的な世界をいかにつくり出すか。“チケット代を安い”と思わせることを追求しなければいけません」

 

 満員のアリーナがプロを育てる

 

(写真:「千葉ジェッツを取り巻く全ての人たちとハッピーになる」を活動理念にしている島田代表)

(写真:「千葉ジェッツを取り巻く全ての人たちと共にハッピーになる」を活動理念にしている島田代表)

 非日常的世界をつくるのは選手やコーチングスタッフだけではない。たくさんのブースターが会場に集い、醸し出す雰囲気でアリーナを特別な空間に変えるのだ。島田代表は「たくさんのお客さんの前で一挙手一投足を見られて、1つのシュートで歓喜があり、フリーで外せば落胆のため息が漏れる。それが本当の意味でのプロに育てるための特効薬になると私は思っています」と言う。

 

 それを受け、今季から千葉ジェッツのHCを務める大野篤史はこう語る。

「いつもホームゲームでは自分たちの後押しをしていただいている。だから恥ずかしい試合は見せられない。どのような試合になっても泥臭く、ひたむきに最後まで戦うということを開幕当初からやっています。もちろんプレッシャーもあります。ただそうやって応援してもらえるチームのHCをやらせてもらえることに幸せを感じています。もっともっと成長しなきゃいけないですし、もっともっとお客さんに喜んでもらえるようなバスケットをしていかなければいけないなと思っています」

 

 キャプテンを務める小野龍猛も抱負を口にする。「毎週たくさんのお客さんに来ていただいて、とても感謝しています。こういう環境でプレーできていることはすごくありがたいことだと思っています。なので良い試合をして皆さんを楽しませるような試合をいつも心がけてやっているので、来ていただいた皆さんには『楽しかった。また応援したい』と思ってくれるようなチームにしたい」。司令塔の富樫勇樹が続ける。「ブースターの後押しなしでは好ゲームはできない。毎試合、たくさんの観客に来てもらえると選手としてはとてもやりがいもありますし、その分、勝たなければいけないプレッシャーもあります。選手としてはすごく楽しいので、どんどん盛り上がってたくさんの方に来てもらいたいと思います」

 

(写真:ホーム最終戦では7327人もの観客を動員した)

(写真:ホーム最終戦では7327人もの観客を動員した)

 コート内に充満する熱量は相手チームを圧倒する。日本人初のNBAプレーヤーである栃木ブレックスの田臥勇太の証言。「千葉ジェッツさんの応援を熱く、激しくされている印象があります。敵としても燃えられる雰囲気を千葉のブースターや会場がつくってくれているのはうれしいです」。栃木は千葉と同地区。レギュラーシーズンでも熱戦を繰り広げてきた。トーマス・ウィスマンHCは「たくさんの観客の中で、試合ができることはとても喜ばしいことだと思います。B.LEAGUEになって、たくさんのファンのみなさんが試合を見に来てくれることはバスケットボールにとっていいこと。レベルの高い試合がファンの皆さんをより呼び込むことになると思います」と感想を口にした。

 

 敵味方に関係なく、試合におけるブースターの存在はとても大きい。島田代表は経営においても「ブースターが一番大事」と捉えている。「私はジェッツを応援している人、すべてがブースターだと思います。会場で声を張り上げていなくても、スポンサー、ボランティア、地域、行政も総称してブースター。チームを支えようしている人たち皆がブースターです。そういう人の支えがあって、存在できている以上は、その人たちを楽しませ、幸せにすることが最重要であることは紛れもない事実です。ファンが喜んでこそプロチームが存在すると考えています」

 

 現在、BS11では「マイナビ Be a booster! B.LEAGUEウィークリーハイライト」(毎週木曜23時~23時30分)を放送中。5月11日(木)の放送では千葉ジェッツのキャプテン・小野龍猛選手を取り上げます。そして翌週の18日には「ブースター特集」。是非ご視聴ください。


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