来夏に開催されるロシアワールドカップで、ビデオ・アシスタント・レフェリー(VAR)がついに導入される。

 

 採用に積極的な姿勢を示していたFIFA(国際サッカー連盟)のジャンニ・インファンティーノ会長が明言したとのこと。ルールを制定するIFAB(国際サッカー評議会)の承認を得られる見通しが立ったのだろう。IFAB年次総会は来年3月に行われる。

 

 審判補助システムの一つであるVARは簡単に言えば、モニター室で映像をチェックしているビデオ審判が誤審をチェックする機能だ。ゴール、レッドカード、PK、選手誤認に関して「明確な誤審」があった場合にのみ、主審、副審に助言できる。つまり試合を左右する事象が、その対象となる。助言を受けた主審はピッチ脇に設置されたモニターで確認したうえで、最終的な判断を下す。

 

 試合を左右しかねない重要な事象についてより正確にジャッジすることが目的。ゲーム自体の“高速化”が進み、審判団が広大なピッチにおいて90分間集中して判断していくことが難しくなっている時代に入っている。「公正」を第一義と考えれば、導入は“やむなし”と言えるだろう。

 

 VARは昨年末のクラブワールドカップ(CWC)で採用された。VARに初めて頼ったのが準決勝のアトレチコ・ナシオナル(コロンビア)-鹿島アントラーズ戦。前半30分、鹿島のFKの場面でペナルティーエリア内に侵入して転倒した西大伍が相手に足を引っかけられたことを映像で確認した主審はPKを告げた。試合は鹿島がこのPKを決めて流れに乗り、3-0で勝利。まさに試合を左右する事象に対し、VARがアシストする形となった。

 

 試合後、鹿島の石井正忠監督は会見で「試合の流れが止まってしまうのは少しどうなのかと思う。しっかり判定してもらえるならいい」と感想を述べている。

 

 確かに「流れが止まる」ことは懸案事項ではあるものの、この日の主審は最大限、速やかに対応した印象を受ける。個人的にはそれほど違和感を覚えなかった。

 

 同じ準決勝のレアル・マドリード(スペイン)-クラブ・アメリカ(メキシコ)戦ではクリスティアーノ・ロナウドのゴールがVARによって「オフサイドか否か」審議されたが、これは主審が最初の判定どおり、そのままゴールを認めている。

 

 大会中、VARの指摘はこの2シーンのみだったものの、これが1試合中に2度、3度ともなってしまうと「流れが止まる」印象を持つことになるだろう。

 

 VARに依存するのではなく、あくまでレフェリーが正しく笛を吹くことが前提であり、レフェリングレベルの向上が求められることは言うまでもない。

 

 VARは昨年からドイツ、オランダ、オーストラリアなどでテストされ、大きな問題は発生していない。国際親善試合では昨年9月のフランス-イタリア戦でも導入され、今年3月のフランス-スペイン戦でも実施されている。テスト期間の成果を踏まえ、FIFAはGOサインに踏み切る準備を整えていた。

 

 一方、Jリーグの現状はどうだろうか。

 判定の精度向上を目的に、アディショナル・アシスタント・レフェリー(AAR)を採用。昨年はJ3、YBCルヴァンカップ(準決勝、決勝)、チャンピオンシップ、天皇杯(準決勝、決勝)で試験導入したが、今年は拡大してYBCルヴァンカップ全試合が対象となっている。

 

 AARは両サイドのゴールライン後方に追加副審が立ち、ペナルティーエリア内の事象について主審をサポートする。ゴール前で主審をあざむくようなプレーの防止策にもなり、一定の効果は出ているように思う。しかしながら1試合で審判団が2人増加となるため、審判の確保という問題も出てくる。

 

 個人的にはIFABが承認すれば、JリーグもVARの試験的導入に動くべきだというスタンスだ。ビデオ審判でも人数を割くことになるとはいえ、AARより映像チェックのほうがプレーするほうも見ているほうも納得しやすいと考えるからである。

 

 レフェリーのレベルアップと同様にサポートの体制をどう整えていくか。レフェリングとテクノロジーの共存は、避けられないのではないだろうか。


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