完封のことを英語で「シャットアウトゲーム」という。ならばオリックスの金子千尋は日本球界における「ミスターシャットアウト」だ。

 

 

 4月14日、敵地での福岡ソフトバンク戦で、現役最多タイとなる21完封を達成した。オリックスは9対0で大勝した。

 

 何よりも金子らしかったのは、わずか92球でゲームを終わらせたことだ。許した安打は2本。四死球は0。究極の“省エネ投法”である。

 

 メジャーリーグでは、「1イニング=15球」が理想だといわれる。先発投手が7回まで投げれば105球だ。先発投手が6回までを3自責点以内に抑えれば「クオリティ・スタート」として評価されるMLBにおいて、球数の多いピッチャーはベンチに嫌われる。計算が立たないからだ。

 

 16勝(5敗)で最多勝、1.98で最優秀防御率投手に輝き、沢村賞をも受賞した2014年オフ、金子はMLB挑戦の意向を示した。

 

 だが、その直後に右ヒジにメスを入れ、断念せざるを得なくなった。

 

 もし金子のヒジにトラブルが発生せず、海を渡っていたら、MLB向きのピッチャーとして、高い評価を得ていたはずだ。

 

 ところで金子のピッチング理論は、一風変わっている。少々、大げさに言えば、これまでの球界の常識を全て覆すものだと言っていい。

 

「得意なボールを持つな!」「ピッチング・スタイルを確立させるな!」

 

 これが金子理論である。

 

 読者諸兄、頭がくらくらしてきたのではないか。それは“真逆”じゃないか、と。

 

 かくいう私も本人から話を聞くまでは、そう考えていた。

 

 得意なボールをひとつ持てば、それが自信につながり、自ずとピッチング・スタイルも確立されてくる。実際、ほとんどの投手コーチが、そう指導している。

 

 だが、金子によれば、そうした考え方や指導法こそが時代遅れなのだ。

「ひとつ、いいボールがあると、キャッチャーはそれに頼りたがる。当然、バッターはそれを狙ってくるでしょう。

 

 またピッチングのスタイルを確立すると、相手はそれに合わせた対策を練ってくる。“金子はこうだ”と思われるのが嫌なんです」

 

 同じ腕の振りから繰り出される多彩な変化球。打ち取られたバッターが「こんなはずじゃない」とばかりに首をひねりながら一塁に走る姿は、金子劇場の名物シーンだ。

 

 中6日の登板を、ぜひお見逃しなく! 

 

<この原稿は『漫画ゴラク』2017年5月12・19日号に掲載された原稿です>

 


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