(写真:無敗の2階級制覇王者と元五輪金メダリストの対戦は、層の薄い階級では屈指の好カード Photo By Ed Mulholland/Top Rank)

(写真:無敗の2階級制覇王者と元五輪金メダリストの対戦は、層の薄い階級では屈指の好カード Photo By Ed Mulholland/Top Rank)

 日本は2日間で7戦というボクシングの世界戦ラッシュに沸いているが、今週末にはニューヨークでも主要なタイトル戦が行われる。5月20日、スーパーライト級の統一王者テレンス・クロフォード(アメリカ)が、“聖地”と呼ばれるマディソン・スクウェア・ガーデン(MSG)のメインアリーナに初登場。メガケーブルHBOで全米生中継されるビッグステージとなった。今回はこの注目の興行の見どころを、3つに分けてピックアップしていきたい。

 

5月20日 ニューヨーク マディソン・スクウェア・ガーデン

WBC、WBO世界スーパーライト級タイトルマッチ

 

王者

テレンス・クロフォード(アメリカ/29歳/30戦全勝(21KO))

vs.

挑戦者、北京五輪ライトウェルター級金メダリスト

フェリックス・ディアス(ドミニカ共和国/33歳/19勝(9KO)1敗)

 

 クロフォードの今後を左右する一戦

 

(写真:数々のイベントが行われるMSGで好印象を残せるか Photo By Ed Mulholland/Top Rank)

(写真:数々のイベントが行われるMSGで好印象を残せるか Photo By Ed Mulholland/Top Rank)

“メイウェザー以降”では随一のスピードスター、クロフォードがキャリア31戦目にして“聖地”に立つ。最大で約2万人を収容する通称MSGでは、過去に多くの名勝負が繰り広げられてきた。無敗のままライト級、スーパーライト級の2階級を制覇した俊才にとっても、これまでで最高の晴れ舞台と言える。

 

 もっとも、試合直前の時点で、ディアス戦のチケット売上はもう一つだという話も聴こえてくる。もともと今戦では2階席は解放されず、アリーナは最大で1万人程度収容に仕切られるというが、それでも空席は目立つかもしれない。ワシル・ロマチェンコ(ウクライナ)とともに、近未来のパウンド・フォー・パウンド最強に近い位置にいると目されるクロフォードだが、“ブロードウェイの呼び物”としてはまだまだということなのだろう。

 

「MSGシアターから大アリーナに“昇格”することには大きな意味がある。このまま勝ち続け、良いパフォーマンスを披露し続ければ、僕の知名度もより大きくなるはずだ」

 昨年2月のハンク・ランディ(アメリカ)戦では約5000人収容のMSGシアターをソールドアウトにした実績があるクロフォードは、そう語って今戦に意欲を見せていた。そんな言葉通り、これまで以上に内容が問われる一戦と言える。

 

 対戦相手のディアスは2008年北京五輪で金メダルを獲得した実力派。ウェルター級での試合経験もあり、万能タイプのクロフォードでも簡単に勝てる相手ではあるまい。逆に言えば、この相手を鮮やかな形で仕留められれば、インパクトは大きい。相手のダメージを見て取った際の詰めの鋭さにも定評があるクロフォードが、ここでどんなショウを見せてくれるか。好勝負も期待できるタイトルマッチは、クロフォードの今後を少なからず左右する一戦と言っていい。

 

 いよいよパッキャオ戦へ?

 

(写真:パッキャオにとって、クロフォード戦はハイリスク・ローリターンか Photo By Ed Mulholland/Top Rank)

(写真:パッキャオにとって、クロフォード戦はハイリスク・ローリターンか Photo By Ed Mulholland/Top Rank)

 クロフォードの周囲では、元6階級制覇王者マニー・パッキャオ(フィリピン)との世代交代戦を期待する声が後を絶たない。パッキャオは7月2日にオーストラリアで当地のプロスペクト(有望株)、ジェフ・ホーンとの復帰戦を開催予定。その後の対戦はスケジュール的にも理に叶う。両雄は同じトップランク傘下だけに、本来はこのファイトの実現は難しくないはずである。

 

「(ディアス戦を)好内容で終えれば、テレンスは夏にも試合を行う。(パッキャオ戦開催は)その後の秋を目指していく。パッキャオ対クロフォード戦は大きなイベントになるか? それは間違いない。人々はこの試合を見たがり、支持してくれるはずだ」

 18日の最終会見時には、トップランクのボブ・アラムもそんな風に語ってはいた。もっとも、百戦錬磨のプロモーターからは、どうもパッキャオの名前をクロフォードの売り出しに利用している印象も受ける。クロフォード側には願ってもないファイトでも、38歳になったパッキャオがこのリスキーな試合を望むかどうか。

 

 現実的には、先月にWBA、IBFスーパーライト級王座を統一したばかりのジュリアス・インドンゴ(ナミビア)とクロフォードの4団体統一戦の方が可能性が高そうである(指名戦の関係でIBFタイトルは早々に返上の噂もあるが)。20日の試合はインドンゴもリングサイドで観戦するそうで、その絡みからも目が離せない。

 

 いずれにしても、クロフォードが真の意味で全国区になるために、何らかのビッグファイトが不可欠。ディアス戦をクリアした後、関係者からどんな言葉が出てくるかにも注目が集まる。

 

 リオ五輪銀メダリストにも注目

 

(写真:まだ線の細いスティーブンソン。稀有な好素材であることは間違いない Photo By Ed Mulholland/Top Rank)

(写真:まだ線の細いスティーブンソン。稀有な好素材であることは間違いない Photo By Ed Mulholland/Top Rank)

 この日の前座カードの中で、楽しみなのはリオデジャネイロ五輪バンタム級銀メダリスト、シャクール・スティーブンソンがプロ2戦目を行うことだ。アマで輝かしい実績を残したスティーブンソンは、4月22日にカリフォルニア州での興行で5ラウンド負傷判定勝ちでプロデビュー。ニューヨークのお隣りニュージャージー州ニューアーク出身だけに、今回の試合でも大歓声を浴びるはずである。

 

「地元の人たちの前で試合ができるのが本当に楽しみ。待ちきれないよ。(デビュー戦よりも)快適に感じている」

 多くの国際舞台に立ってきたこともあってか、鳴り物入りの新人は地元凱旋試合にも大きなプレッシャーは感じていないようだ。

 

 ただ、実際に顔を合わせてみると、やはりまだ19歳。表情、仕草にはあどけなさが残り、体格的にもまだ子供との印象を相手に与える。4月のデビュー戦でもパワー不足ゆえに、大きな山場は作れなかった。

 

“メイウェザーの後継者”といった過剰な期待が浴びせられているが、少し長い目で見てあげる必要がありそう。今週末のカルロス・カストン・スアレス(アルゼンチン/6勝(1KO)3敗2分)でも、勝ちは間違いなくとも、鮮烈なKOが約束されているとは言い切れない。まずはポテンシャルの一端を何らかの形で誇示し、地元ファンを喜ばせるのが2戦目の目標と言えそうだ。

 

杉浦大介(すぎうら だいすけ)プロフィール
東京都出身。高校球児からアマボクサーを経て、フリーランスのスポーツライターに転身。現在はニューヨーク在住で、MLB、NBA、NFL、ボクシングを中心に精力的に取材活動を行う。『スラッガー』『ダンクシュート』『アメリカンフットボールマガジン』『ボクシングマガジン』『日本経済新聞』など多数の媒体に記事、コラムを寄稿している。著書に『MLBに挑んだ7人のサムライ』(サンクチュアリ出版)『日本人投手黄金時代 メジャーリーグにおける真の評価』(KKベストセラーズ)。最新刊に『イチローがいた幸せ』(悟空出版)。
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