(写真:今年のホノルルトライアスロンも老若男女、子供までが楽しんだ)

(写真:今年のホノルルトライアスロンも老若男女、子供までが楽しんだ)

 いつの頃からだろう。マラソンが楽しいイベントになったのは。

 僕の記憶が正しければ、国内でそんな空気感を出したのは那覇マラソンが最初である。その後、東京マラソンがスタートしたことにより、一気に加速した。つまりほんの10年ちょっと前までは「楽しいマラソン」というのは国内になかったということになる。真面目にやることは得意だけど、楽しくやることが苦手な日本人も、ようやくそんなことができるようになったと思うと嬉しい進歩だ。

 

 国内における他のエンデュランス系参加型スポーツではどうだろう。

 自転車も、10年前からサイクリングイベントが開催されはじめ、ロードレースと言われる自転車競技以外のタイムを計測しないで楽しく走ることが目的のイベントが急速に増え始めた。たった10年で、国内では数え切れないほどの数になっている。やはり日本における参加型スポーツを楽しむという文化が形成されてきたのは、この10年なのかもしれない。

 

 僕の専門であるトライアスロンでは、まだなかなかその域に踏み込めていない。近いところでは立川の国営昭和記念公園での大会が、場所柄もありハードルの低い大会として30年近く前から開催されている。そもそもこの大会は30年前から開催されているレディース大会に付帯してできたもので、そう考えると今から30年前に女性だけの大会を作った当時の担当者の斬新な発想には敬意を表する。

 

 しかし、その後はこれに類した大会はなかなか生まれず、厚木基地で開催されていた「日米親善トライアスロン」、奄美大島で開催されていた「奄美レディース大会」くらいであろうか。もっとも奄美大会は楽しむ要素というより、競技性が高い。日米親善もかなり前になくなってしまっている。やはりそれに追随するイベントは地方で小規模なものが少しある程度。これが「トライアスロンはハードルが高い」と言われる要因になっていた。

 

 分岐点にいるトライアスロン

 

(写真:ロケーションを楽しむのもアウトドアスポーツの魅力だ)

(写真:ロケーションを楽しむのもアウトドアスポーツの魅力だ)

 そんな中で10年前から「ホノルルトライアスロン」が始まった。もともとホノルルで開催されていた大会を、日本人にも参加しやすいようにリメイクされたものだ。「マラソン界のホノルルマラソンのような存在、誰にでも楽しく、『あそこなら出たい』と思われるような大会を作りたい」という発想から作られている。確かにホノルルマラソンは、マラソン未経験者を中心に根強い人気があり、毎年1万人を超える日本人が参加している。最近では初心者だけでなく、ベテランランナーが、「もう一度楽しいマラソンを!」ということで参加するケースも増えているという。そんな魅力的なイベントがあることは、そのスポーツの裾野を広げるに非常に重要なことだと思う。

 

 時に競技団体は、競技会を開催するのは得意だが、楽しいイベントを開くのは苦手である。しかし、スポーツは底辺人口が広がってこそファンが増え、競技人口も増える。人口減少が続く中で、そんな努力のできない競技は未来が明るくないだろう。マラソンの場合はファンラン系に関しては競技団体ではなく、そんなイベント作りを得意とする業者や関係者が作ってきた。「餅は餅屋」という意味で、いい分業スタイルだと思う。自転車の世界もそんな傾向がある。他のスポーツも成功例をどんどん取り入れたいところだが、運営ノウハウの特殊性と、愛好者人口が少ないスポーツはなかなか簡単ではない。ビジネスモデルが成立しないからである。そういう意味ではトライアスロンはその分岐点。スポーツの普及・発展のために、なんとかビジネスモデルを確立していく必要があるだろう。

 

 今年も5月14日にホノルルトライアスロンが開催され、日本から約800人の参加者が楽しんだ。レース前日から終了まで、柔らかい空気感の中、多くの新人トライアスリートが誕生した。皆一様に、「ホノルルだからできた」「ここで良かった」と語る。そんな様子を見ていると、やはりこういう大会は大事であると改めて感じる。

 

「世界でもっとも優しい、ハードルの低いトライアスロン」を目指すホノルルトライアスロンがこれからも開催されていくことが、トライアスロン界にとっては重要だろう 観戦型でなく、参加型スポーツはこんな「ホノルル型」をいかに作っていけるか。それが東京オリンピック・パラリンピックの開催される2020年以降、各競技にとって大きく影響してくることになると思われる。

 

白戸太朗(しらと・たろう)プロフィール

17shiratoPF スポーツナビゲーター&プロトライアスリート。日本人として最初にトライアスロンワールドカップを転戦し、その後はアイアンマン(ロングディスタンス)へ転向、息の長い活動を続ける。近年はアドベンチャーレースへも積極的に参加、世界中を転戦していた。スカイパーフェクTV(J Sports)のレギュラーキャスターをつとめるなど、スポーツを多角的に説くナビゲータとして活躍中。08年11月、トライアスロンを国内に普及、発展させていくための会社「株式会社アスロニア」を設立、代表取締役を務める。著本に『仕事ができる人はなぜトライアスロンに挑むのか!?』(マガジンハウス)、石田淳氏との共著『挫けない力 逆境に負けないセルフマネジメント術』(清流出版)などがある。

>>白戸太朗オフィシャルサイト
>>株式会社アスロニア ホームページ


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