ドリブルはサッカーの華である。目の前に立ちはだかる敵を次々に抜き去りゴールまで決める――。サッカー少年ならずとも憧れるプレーだ。

 

 

 伝説のドリブルといえば1986年、メキシコW杯でのディエゴ・マラドーナ(アルゼンチン)の“5人抜き”にとどめを刺す。

 

 準々決勝のイングランド戦。後半9分だ。ハーフウエーライン付近でパスを受けたマラドーナは、まずはピーター・ベアズリーをかわし、後ろから来たピーター・リードも反転して振り切った。

 

 そのままギアを上げ、3人目のテリー・ブッチャー、フォローに回ったテリー・フェンウィックも抜き去る。最後の犠牲者は飛び出してきたGKのピーター・シルトンだった。

 

 引き立て役のイングランドの選手たちも立派だった。足をかけることもユニホームを引っ張ることもしなかった。彼らはどこまでもマンリーネス(男らしさ)の精神に忠実だった。

 

 近年ではアルゼンチン代表リオネル・メッシ、ブラジル代表ネイマールがドリブルの名手として知られる。

 

 メッシが俊敏性を生かした細かいステップで右サイドから内側への切り込みを得意とするのに対し、ネイマールはブラジル仕込みのフェイントで相手を手玉に取る。2人のプレーは何度見ても飽きることがない。

 

 そして、日本では――。横浜F・マリノスの齋藤学を推したい。

 

 彼の動きは変幻自在だ。ある時は左サイドから縦に行くと見せかけて内側に切り込みシュートを放つ。またある時は内を窺う振りをしながら縦を突く。「和製メッシ」とは最大級の褒め言葉だろう。

 

 自らの役割について、本人はこう述べている。<僕がドリブルで敵を引き付ければ、その分、味方がフリーになる>(サッカーダイジェスト2017年3月27日号)

 

 サッカーファンの耳目を集めた試合がある。J1第6節、4月8日の横浜FM対ジュビロ磐田戦だ。

 

 メディアはこの試合を「新旧10番対決」とあおった。長きに渡って横浜FMの10番を背負ってきた中村俊輔がこの1月、磐田に移籍。それにともない、齋藤が10番を継承したのだ。

 

 フリーキックの名手として知られる俊輔だがドリブルもうまい。またぎフェイントやキックフェイントを駆使した相手との駆け引きは38歳になった今も他の追随を許さない。

 

 この試合、齋藤は2アシストを決め、2対1の勝利に貢献した。

 

 チームの先輩・中澤佑二は「代表でスタメンを張れるだけの力を持っている」と齋藤の成長ぶりに目を細めていた。

 

「何度も良い攻め方ができた。俊輔さんが僕らの変化を感じとってくれたら嬉しい」と新10番。エースの自覚も十分だ。

 

 齋藤の変幻自在のドリブルはゲームにアクセントを加えるばかりでなく、貴重な得点源ともなる。

 

 代表監督のヴァイッド・ハリルホジッチには、ぜひ試してもらいたいカードのひとつである。

 

<この原稿は『サンデー毎日』2017年5月21日号に掲載されたものです>

 


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