1705unnkai1二宮清純: 伊藤さんは16歳で代表入りしました。水泳を始められたきっかけは?

伊藤華英: 私は生まれつき喘息だったので、生後6カ月で始めました。

 

 

二宮: 小さい頃から速かったでしょう?

伊藤: ジュニアオリンピックに小学校3年生から出場していました。でも、水泳にあまり集中していなかった。その頃はあまりオリンピックに出たいとも思っていなかったです。

 

二宮: 所属は名門のセントラルスポーツでした。1988年ソウルオリンピック男子100m背泳ぎ金メダリストで、現在はスポーツ庁の長官を務める鈴木大地さんらを輩出しています。伊藤さんは鈴木大地さんと同じ鈴木陽二さんから指導を?

伊藤: はい。人間的にもすごくいい先生です。

 

二宮: 私は最初に取材したオリンピックがソウル大会でした。鈴木大地さんの金メダルのレースは興奮しました。バサロで全然水中から浮上してこない。隣の人が「おい、溺れたぞ」と言ったのを今でも覚えていますよ(笑)。

伊藤: アハハハ。あれから変わりましたよね。「大地さんから日本の競泳界が強くなりましたね」と本人に話したら、「もっと言ってくれ」と話されていました(笑)。

 

二宮: まさか本番でバサロの距離を変えるとは……。レース後に鈴木陽二さんから聞きましたが、そんな作戦があるとは思わなかったですよ。伊藤さんは鈴木陽二さんに教わって、北島康介などを育てた平井伯昌さんにも教わったのでしょう?

伊藤: 平井先生には代表合宿などで教わりました。平井先生は鈴木先生のことをすごく尊敬していたので、いいコンビでした。平井先生が悩んだ時は鈴木先生に相談したりしてコミュニケーションをとっていました。

 

1705unnkai7二宮: 2人とも選手としてずば抜けた実績はありません。

伊藤: だから選手に厳しい練習を課せられるのかもしれないですね。10代の時に一回鈴木先生に反抗したことがあって、思わず「先生、やってみたことありますか?」と言ったんです。

 

二宮: すごいなぁ。それは度胸ありますね。

伊藤: 選手時代は、コーチとも同じ目線で見ようと思っていました。よく言えば言い合えるいいチームでしたね。「オマエそんなんだから寺川(綾)と中村(礼子)に負けるんだよ」と言われて、カチンときてビート板を投げつけたこともあります(笑)。

 

二宮: 特に寺川さんとは学年も同じで、種目も同じ背泳ぎでライバルと言われていました。

伊藤: 若い時、綾は口に出して、「負けないからね」と言うんですよ。私はそういうふうに言えなかったので、そういう意味では“負けちゃったかな”と思っています。代表に入ったばかりの時に「私たちは水の中ではライバルだからね」と言われましたが、最初はその意味すらわからなかった。アスリートとしては彼女の方が上を行っていたのかなと思います。

 

 アスリートには向いていない!?

 

二宮: なるほど。初めてのオリンピックは北京大会でした。

伊藤: 23歳の時に出場しました。本当はその4年前のアテネオリンピックに出場したかったんです。

 

二宮: 選考会となった日本選手権で100m背泳ぎは5位、200m背泳ぎは3位でアテネ行の切符には届きませんでした。日本代表には中村さん、寺川さん、稲田法子さんが選ばれました。

伊藤: 今になって思うのは、私はそこまで強くオリンピックに出場したいとは思っていなかったのかもしれません。もちろんアテネに行きたい気持ちはありました。ただその想いが綾や礼子とは違ったのかもしれない……。

 

二宮: 競技人生で一番悔しかったのはその時?

伊藤: そうですね。毎日は泣かなかったですが、自分が頑張れなかったことが恥ずかしいと思っていました。レースに集中できなかったり、プレッシャーに負けてしまったことに対して。ライバルたちはそれを想定してそのレースに挑んでいるのに、私は何も想定していなかったんです。

 

二宮: じゃあ、アテネオリンピック本番はテレビも観たくなかった。

伊藤: 全然観たくなかったです。でも、やはり観てしまった。新潟の合宿中で、すごく悔しかったのですが、出ているみんながとても輝いて見えました。その時、気付いたんです。自分には水泳に対しての情熱が足りなかった、と。

 

二宮: そこからどうやって立ち直りましたか?

伊藤: ある先輩が部屋に来て、「次はオマエなんだぞ」と言ってくれた時に“頑張ろう!”と強く思いました。その先輩だって選手ですから、他人のことはなかなか応援できない。それでも私にそういうふうに声を掛けてくれた。この年は私にとって競技人生のターニングポイントになりましたね。

 

1705unnkai9二宮: 悔しさをバネに4年後の北京オリンピックに出場しました。寺川さんは初めてのオリンピック出場となったアテネ大会を緊張のあまり「とにかく何をやったか覚えていない」とおっしゃっていました。

伊藤: 私は緊張したことに気付かないくらい、緊張していました。当時は“私、緊張してない。意外と余裕があるかも?”と思っていたんです。でもそれが普通じゃない感覚だったんですね。

 

二宮: 北京はオリンピックでは100m背泳ぎで8位入賞。200m背泳ぎでは準決勝敗退でした。

伊藤: メダルを獲りたかったですね。でも、まわりの選手もすごく速かった。

 

二宮: そういう点では巡り合わせもあったのかもしれませんね。

伊藤: 私には勝負運がなかったと思いました。だから、アスリートに向いてなかったのかなとも。

 

二宮: 2回もオリンピックへ行った人がそれを言いますか(笑)。

伊藤: いや、本当に向いてなかったのかなと思うことはありますよ。もし水泳選手でなかったら、普通に受験して大学に入りたかったです。動物が好きだったので、獣医になりたかった。

 

二宮: オリンピックに1回も出られない選手もたくさんいます。2回も出られただけでも十分幸せですよ。

伊藤: 1回だけでは、オリンピックはわからないと思うので2回は出たかったですね。2009年にヒザの脱臼と椎間板ヘルニアになったので、自由形に転向してロンドンオリンピックを目指しました。

 

二宮: ロンドンオリンピックはフリーリレーの代表メンバー(400m、800mの2種目)に選ばれ、個人では200m自由形にも出場しました。

伊藤: 元々は背泳ぎが専門だった選手がオリンピック行ったので、後輩からは「自由形の選手は何人かやめたと思いますよ」と言われました。でも私も“やるからには負けない”と必死にやっていましたからね。

 

 スイマーは水中の方が楽!?

 

1705unnkai2二宮: ところで以前、シンクロナイズドスイミングのある選手がプールにいることに慣れ過ぎて、陸は苦手だとおっしゃっていました。競泳選手だった伊藤さんにもそういう感覚はありますか?

伊藤: 私も一緒です。現役時代は水中で生活している時間の方が長いですから。

 

二宮: 練習では1日何キロぐらい泳ぐのでしょう?

伊藤: 基本的に1回の練習では6000から7000mは泳ぎますね。

 

二宮: 簡単に言わないでください(笑)。6、7kmなんて走るのも大変ですよ。

伊藤: 私は今日5km走ったんですが、“泳いだ方がいいな”と思いました(笑)。3kmだったら絶対泳いだ方が楽ですね。

 

二宮: 遠泳だったらどれくらい泳げます?

伊藤: 私、今は遠泳の大会にも出ています。海はプールと違って塩水ですし、あと波もありますが、遠泳も楽しい。ただ大会だと勝負なので、相手がいると海でも勝ちたいと思ってしまいますね。この間も現役の選手に抜かされて全体3位でした。女子では断トツのトップでしたが、ちょっと悔しかったです。

 

二宮: オリンピアンのプライドが許さないわけですね。

伊藤: 私の場合は負けたくないっていうよりは、自分が頑張れないことが嫌なんですよ。

 

二宮: やはり勝気な人が多いです。

伊藤: アスリート同士で結婚された方は絶対大変だと思います。お互いに折れない。折れる選択肢がない(笑)。

 

 サーフィンはカウンター席と似ている

 

二宮: ところで現役時代の息抜きは何でしたか?

伊藤: 読書ですね。本を読んでいると違う世界に入り込めるから、集中できるんですよ。当時はミステリーが好きで、東野圭吾さんや伊坂幸太郎さんの本をよく読んでいました。中学生の時から、親に本をよく買ってもらっていたんです。結構、本が好きで本中毒でしたね(笑)。

 

1705unnkai3二宮: 喜びますよ。作家の人は。

伊藤: 作品には作家さんの人生観が入っているじゃないですか。一文でも二文でも、伝えたいことが入っているから好きですね。

 

二宮: 2012年に現役を引退されてから、5年が経ちました。新しく始めた趣味はありますか?

伊藤: サーフィンですね。この間、ハワイでも乗ってきました。誰も待っていなければ3、4時間は海にいたいです。

 

二宮: いいですね。自然を相手に。

伊藤: そう。たとえ波が来なくてもイライラしません。待っている時間も楽しめます。

 

二宮: 競泳とは違う感覚ですか。

伊藤: 板も使いますし、海ですから違いますね。サーフィンは「飲食店でカウンターがいい」という理由と一緒なんです。波待ちをしている時、横に並ぶじゃないですか。その時に会話が弾むんです。その感覚はカウンター席で話が盛り上がるのと似ているなと。

 

二宮: なるほど、それはわかりやすい!

伊藤: それがサーフィンの良いところだなと思います。

 

二宮: さて、そば焼酎『雲海』のソーダ割り「そばソーダ」はいかがだったでしょうか?

伊藤: 私はハイボールが飲めないのですが、これはイケますね。サクサク飲めるというかすっきりしていて飲みやすい。これをカウンター席で飲んだら、きっと話もお酒も進みますね。

 

二宮: カウンターでそば焼酎『雲海』はいかがですか?

伊藤: それはオシャレかもしれませんね。何時間でもお酒を飲みながら、話が弾みそう!

 

二宮: 他競技の選手とも飲むことはありますか?

伊藤: ありますね。この間はフェンシングの太田雄貴さんと千田健太さんと飲みました。太田さんはすごく頭が良い人で、人を惹きつける力があるなと思いました。

 

二宮: 私も取材で何回かお話させてもらったんですが、彼は有言実行タイプですね。

伊藤: ちゃんと芯のある方ですね。慎重派で常識人。

 

二宮: 今日はもういろいろなお話を伺いました。雲海のそばソーダも気に入っていただけたようで。お土産にどうぞ。

伊藤: ありがとうございます。私の家に友達が来た時に今度は皆で飲もうと思います!

 

(おわり)

 

1705unnkaiPF伊藤華英(いとう・はなえ)プロフィール>

1985年1月18日、埼玉県生まれ。生後6カ月で水泳を始める。長い手足を生かした大きな泳ぎで高校時代から頭角を現し、100m、200m背泳ぎで日本新記録を打ち立てるなど活躍。頭角を現す。2001年世界選手権に16歳で出場。女子100m背泳ぎで7位入賞を果たした。五輪は08年北京大会で初出場。100m背泳ぎで8位に入賞した。09年からケガの影響もあって、背泳ぎから自由形に転向。12年ロンドン五輪ではフリーリレー2種目に出場を果たした。400mフリーリレーで7位、800メートルフリーリレーで8位入賞に貢献した。同年秋の国民体育大会を最後に現役を引退。順大大学院博士後期課程修了。日大非常勤講師。身長173cm。

 

 今回、伊藤さんと楽しんだお酒は本格そば焼酎「雲海」。厳選されたそばと、宮崎最北・五ヶ瀬の豊かな自然が育んだ清冽な水で丁寧に造りあげた深い味わい、すっきりとした甘さと爽やかな香りが特徴の本格そば焼酎です。ソーダで割ることで華やかな甘い香りが際立ちます。

提供/雲海酒造株式会社

 

<対談協力>

麓屋

東京都新宿区西新宿2丁目2−1

TEL:03-3344-2885

 

営業時間:

ランチ  月~金 11:30~15:00

ランチ  土・日・祝 11:30~16:00

ディナー 月~金 17:00~23:00(L.O.22:00)

ディナー 土 16:00~23:00(L.O.22:00)

ディナー 日・祝 16:00~22:00(L.O.21:00)

 

☆プレゼント☆

伊藤さんの直筆サイン色紙を本格そば焼酎「雲海」(900ml、アルコール度数25度)とともに読者3名様にプレゼント致します。ご希望の方はこちらより、本文の最初に「伊藤華英さんのサイン色紙希望」と明記の上、下記クイズの答え、住所、氏名、年齢、連絡先(電話番号)、このコーナーへの感想や取り上げて欲しいゲストなどがあれば、お書き添えの上、送信してください。応募者多数の場合は抽選とし、当選発表は発送をもってかえさせていただきます。締切は6月8日(木)までです。たくさんのご応募お待ちしております。なお、ご応募は20歳以上の方に限らせていただきます。

 

◎クイズ◎

 今回、伊藤さんと楽しんだお酒の名前は?

 お酒は20歳になってから。

 お酒は楽しく適量を。

 飲酒運転は絶対にやめましょう。

 妊娠中や授乳期の飲酒はお控えください。

 

(構成・写真/杉浦泰介)


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