6度のダウンを奪っての堂々たるTKO勝ち。カンムリワシが有明コロシアムから大きく羽ばたいた。

 

 

 さる5月20日、前同級王者フアン・エルナンデス(メキシコ)との間で行われたWBC世界フライ級タイトルマッチ。同級1位・比嘉大吾は13戦全勝全KOで王座を奪取した。

 

 試合を振り返ろう。まず2ラウンド、居合抜きのような左フックでダウンを奪った。5ラウンドには飛び込みざまのレフトでメキシコ人に8カウントを聞かせた。

 

 圧巻だったのは勝負を決めた6ラウンドだ。内臓ごとえぐり取るようなボディへの集中打で、この回だけで4度のダウンを奪った。

 

 カンムリワシの狩りを動画で見たことがあるが華麗で獰猛だ。石垣島や西表島に生息するカンムリワシはタカ科の猛禽類。広げた羽は80センチにもなるという。

 

 大空を滑空し、狙いを定めた獲物は絶対に逃がさない。獲物を捕捉すると、両足でしっかりおさえ、はらわたを食いちぎる。比嘉のボクシングそのものだ。

 

 前日計量でエルナンデスの体重がリミットを200グラム上回り、王座を剥奪されるという出来事があった。減量失敗はプロの恥だが、これは対戦相手の心理面にも微妙な影響を与える。

 

 比嘉はどうだったか。

「相手が計量をオーバーして、自分が得られるものはひとつもない。僕も減量はきつかったけど、何とか間に合わせた。それもあって、今回だけは絶対に負けたくないと思っていました」

 

 弟子の快挙をボクシング界のレジェンドであるジム会長の具志堅用高も素直に喜んだ。

「世界チャンピオンになると約束してくれたので信用していた。本当に素晴らしい試合をしてくれました」

 

 具志堅と言えば、元祖カンムリワシ。13度の世界王座防衛は今も日本記録だ。

「最初のうちはバラエティー番組に出ている沖縄出身のおもしろいオジさんだと思っていた」

 

 時代が違うのだから、比嘉がそんな印象を抱いたのも無理はない。沖縄の宮古工高を卒業と同時に白井・具志堅スポーツジムに入門した。

 

 高校時代の最高成績は国体ベスト8。通算戦績も36勝(8KO・RSC)8敗とパッとしない。その意味ではプロで伸びた選手と言えるだろう。

 

「入ったばかりの頃はぶんぶん振り回すタイプでスピードはなかった。ただ勘はよかった。彼にはパンチに加えてボクシングセンスがある。力だけに頼っていないから、このレベルでもKOできるのでしょう」(野木丈司トレーナー)

 

 比嘉の戴冠により、日本人の世界王者は計10人となった。2013年にJBCがWBA、WBCに続いてWBO、IBFを承認した時点で、この事態は予測できた。

 

 とりわけ軽量級は全城場治の状態で、田中恒成(WBOライトフライ級)、井岡一翔(WBAフライ級)、井上尚弥(WBOスーパーフライ級)ら有力ボクサーが牙城を築いている。誰が一番強いのか。ファンのニーズを汲み取った魅力あるマッチメークが待たれる。

 

<この原稿は『サンデー毎日』2017年6月18日号に掲載されたものです>

 


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