(写真:新星ジャッジは早くもスポーツ・イラストレイテッドの表紙に起用された)

(写真:新星ジャッジは早くもスポーツ・イラストレイテッドの表紙に起用された)

 メジャー屈指の名門ニューヨーク・ヤンキースが今季は好調だ。日本では田中将大投手のミステリアスな不振ばかりが特筆されているだろうが、実はチームは快進撃を継続中。6月14日の時点で38勝25敗という好成績で、アメリカン・リーグ東地区の首位を快走している。

 

 昨オフに多くの主力選手を放出した後で、今季は我慢の年になるかと思われた。しかし、序盤戦のサプライズチームは、単なるサプライズで終わらない雰囲気を醸し出し始めている。躍進の最大の要因は、破壊力抜群のラインアップだ。

 

 センセーショナルな活躍を見せるジャッジ

 

「(ヤンキースは)良いチームだ。若手とベテランがうまく融合されているね。アーロン・ジャッジは攻守両面でとても印象的。そしてチーム全体が打撃好調だよ」

 6月7、8日の2試合ではヤンキースに合計17得点を許したレッドソックスのジョン・ファレル監督もそう述べていた。ここでも真っ先に名前が挙がったジャッジは、すでにメジャー全体のセンセーションになりつつある。

 

 身長201cm、体重128kgの大型外野手は、今季60試合終了時点で打率.341、22本塁打、49打点という見事な成績を残してきた。25歳にしてア・リーグの三冠王も狙える位置につけており、地元ニューヨークでも話題沸騰。「All Rise(みんな立ち上がれ)」のキャッチコピーとともに、ジャッジの打席が地元最大の呼び物となっている感がある。

 

(写真:昨季53試合で20本塁打を打ったサンチェスは地元ファンの期待の星になった Photo By New York Yankees)

(写真:昨季53試合で20本塁打を打ったサンチェスは地元ファンの期待の星になった Photo By New York Yankees)

 打ちまくっているのはジャッジだけでない。シーズンの約3分1を終えたところで、ブレッド・ガードナー(13本塁打)、マット・ホリデイ(13本)、スターリン・カストロ(12本)、ゲイリー・サンチェス(11本)、アーロン・ヒックス(10本)の5人も二桁本塁打。チーム全体でも60試合で102本塁打を放っており、この数字はもちろん30球団トップだ。

 

「僕たちは打てる球を見逃していない。投手に多くの球を投げさせ、甘い球が来たら弾き返している。チーム全体で相手にダメージを与えているんだ」

 ジャッジがそう述べていた通り、パワーと才能に恵まれた主力打者たちの間に相乗効果が生まれている。辛抱強く球数を稼ぎ、好球必打。ラインアップのどこからでも長打が飛び出す破壊力は、ライバルチームには驚異に違いない。

 

 最初の60試合の本塁打ペースを保てば、162試合換算で275本。球団史上最多記録(2012年の245本)を上回るだけでなく、メジャー史上最高の1997年のマリナーズの264本すら凌駕するペースとなっている。

 

 破壊力抜群、新生“ブロンクス・ボンバーズ”

 

(写真:サンチェス、ルイス・セベリーノら、生え抜きのスター候補には地元ファンも愛着を感じられるだろう)

(写真:サンチェス、ルイス・セベリーノら、生え抜きのスター候補には地元ファンも愛着を感じられるだろう)

 現代に蘇った“ブロンクス・ボンバーズ”。ホームランは今昔も変わらぬベースボールの華だ。このまま打ち続ければ、ジャッジ、サンチェスらを軸とするヤンキース打線は、シーズン後半にはこれまで以上に大きな注目を集めることになるだろう。

 

 もちろんヤンキース打線のこの勢いが続くとは限らず、長いシーズンの中ではアップ&ダウンがあるはずだ。昨季は27試合で84打数42三振という驚異の三振率(5割)を誇ったジャッジが、徐々に穴を露呈したとしても不思議はない。ガードナー、ヒックスはやや出来過ぎの感があるし、37歳のホリデイが1年を健康体で乗り切れるかも定かではない。

 

 ただ、昨季途中から珍しく再建体制に入ったヤンキースが、良い方向に向かっていることは間違いない。若手が芽を出し、ファンが親しみを感じられる楽しみなチーム。あとは先発投手陣が整備されれば、今季中にも上位進出が可能かもしれない。

 

(写真:若手が徐々に目を出し、キャッシュマンGMも最近は上機嫌だ)

(写真:若手が徐々に目を出し、キャッシュマンGMも最近は上機嫌だ)

「対戦する相手チームが我々を警戒し始めているのを感じている。それを知るのは良いものだ」

 ブライアン・キャッシュマンGMもそう語り、チームの方向性に自信を示している。  

 

“常勝”と呼ばれた時代も今は昔———。デレック・ジーター、マリアーノ・リベラ、ホルヘ・ポサダのような重鎮が相次いで引退し、以降のヤンキースは観るべき価値のある選手が乏しくなっていた。おかげで観客動員も激減。そんな伝統球団にとって、ジャッジ、サンチェス、現在故障離脱中のグレッグ・バード、マイナーの有望株グレイバー・トーレスといった生え抜きの若手が順調に芽を出し始めていることには大きな意味がある。

 

 ヤンキースの周囲が再び騒がしくなってきた。このまま豪快なアーチをかけ続け、ニューヨーカーの視線を伝統のスタジアムに呼び戻せるか。新生“ブロンクス・ボンバーズ”の行方から、今後しばらくは目が離せそうにない。

 

杉浦大介(すぎうら だいすけ)プロフィール
東京都出身。高校球児からアマボクサーを経て、フリーランスのスポーツライターに転身。現在はニューヨーク在住で、MLB、NBA、NFL、ボクシングを中心に精力的に取材活動を行う。『スラッガー』『ダンクシュート』『アメリカンフットボールマガジン』『ボクシングマガジン』『日本経済新聞』など多数の媒体に記事、コラムを寄稿している。著書に『MLBに挑んだ7人のサムライ』(サンクチュアリ出版)『日本人投手黄金時代 メジャーリーグにおける真の評価』(KKベストセラーズ)。最新刊に『イチローがいた幸せ』(悟空出版)。
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