170623kakihara1 「そうだ! 大会ポスターを作らなきゃ」

 8月14日の『カッキーエイド』へ向けて、準備を着々と進めている。プロレス興行と言えば、大会ポスターはセットである。どんな田舎に行ってもプロレスの大会ポスターを目にするはずだ。たくさんの選手の顔が並んだポスターを指差しながら「どれがいい?」なんてことを子どもの頃に1度はやったことがあるのではないだろうか。

 

 今の時代、ポスターでの大会告知がどこまで効果的かは疑問だが、興行をやるからにはこれがないと始まらない。どうせ作るなら目立つものが良いのだが、そう簡単ではなかった。

斬新なものを考えたいのだが、どうしてもあの定番の「ザ・プロレス興行」的なものしか頭に浮かんでこないのだ。だからと言って方向性を大きく外してしまうと、会場に来てくれるようなプロレスファンには届かないだろう。

 

「やっぱりインパクト重視じゃない?」

 知人のプロレスファンにアドバイスを求めるとこのような言葉が返ってきた。インパクトを噛み砕いていくと、そこには強いメッセージ性が必要ではないかと解釈した。

 

 今大会のテーマはふたつある。僕の試合復帰と新生UWFのリバイバルだ。

 

 復帰にあたり原点に立ち返る意味でもUWFを強く意識した。自分が憧れて入った新生UWFのあの世界観を再び作り出したいのである。解散してから27年が経った今、UWF回顧ブームに沸き、関連書物などが売れている。不思議なことにここにきて再ブームのような盛り上がりをみせているのだ。

 

 1988年からわずか2年と短い期間しか活動しなかった新生UWFが、今もなお多くの方に支持されているのは何故だろうと考えてみる。おそらくマット界の長い歴史上でもUWFほど試合ルールや興行面で、イノベーションを起こした団体はなかったからだと思う。当時、20代だった前田日明さんをはじめとする若者6人が、前途多難な道を恐れず歩んだところもカッコ良かったのである。

 

「よし、全面的にUWFブランドを押し出そう」。僕はポスターの構図をUWF一色でいこうと決めたのだが、これが一筋縄ではいかなかった。

 

 まず、UWFのロゴの著作権問題が大きく立ちはだかったのだ。かつて同じ釜の飯を食べた先輩がその権利を持っているだけに使用不可の展開になるなんて夢にも思わなかった。

 

「UWFの象徴である、あのロゴが使えないのは痛い」

「こんな時に力を貸してくれないなんて悲し過ぎる」

 

 リングに上がることの難しさは、選手経験がある者ならわかるはずだ。しかし、そう簡単な問題でもなかった。「ビジネスが絡むから仕方がない」。すぐに気持ちを切り替え、ロゴに拘るのを諦めた。未来に向けて上向くテーマを作り出そう、と一から練り直すことにした。そこで「UWF」に変わる3文字で頭に浮かんできたのが「生きろ」だ。

 

 お客様に「生きること」への熱いメッセージを届ける。今の自分にできることは、それしかないと思ったのだ。「生きろ」という言葉は、時々オタオタしてしまう自分への叱咤の意味もある。生き残るためには強い心が必要だ。オタオタしているようでは、荒波を乗り越えることなどできない。僕はリングに上がるという目標を持ったことで、細胞レベルまで士気が上がった。

 

 一度引退した人間が簡単に戻れるような甘い世界ではないが、強い覚悟を持ち真摯に取り組めば実現可能だと信じている。なぜ復帰にこだわるのかというと、マット界に携わる多くの方々から多大なる支援をしてもらった僕が恩返しできるのは、完全復活した姿を見せることが一番だと考えたからだ。そして、それを最大限に表現できる場はリングしかない。

 

 技術や体力のない現状で、僕が魅せられるのは、がむしゃらに挑戦する姿勢しかない。現在のありのままの姿を、リング上でぶつけることだと思う。

 

「ポスターで、今の肉体を披露するのはどうだろうか?」

 抗がん剤治療期間にゲッソリと筋肉が落ちて以来、僕は人前で身体を見せることを極端に避けていた。やはりポスター撮影当日も多少の迷いはあったが、あのヒクソン・グレイシーの専属カメラマンに撮っていただくことになり、決意が固まった。

 

 ヒクソン選手は、新生UWFの先輩である高田延彦さんや船木誠勝選手を破った猛者である。世界中の誰もが認めるトップファイターを長年撮り続けたカメラマンさんに撮影してもらえるチャンスなどそうあるものではない。

 

 用意していたラッシュガードはバッグに仕舞い込み、気持ちを引き締めてカメラの前に立った。

 

「うわっ、やっぱりショッパイ身体だな」

 僕はカメラマンさんが撮った画像を見ながら思わず声をあげた。角度によっては目を覆いたくなるほど筋肉が落ちている部位もあり、これが現実なのだと受け止めるしかなかった。

 

 今回、ポスターに採用されたものは、たくさん撮った中での奇跡の1枚を選ばせてもらったので、それほど酷い体には見えないかもしれない。

 

「よし、8月までまだ時間があるから、肉体改造しよう」

 当日の試合は、感染予防の意味もあり、裸ではなくラッシュガードを着用する予定だが、頼りない身体までを隠すことはできないだろう。

 

「リング上では、なりふり構わず生き様を魅せるしかない」『カッキーライド』では、自分のすべてをさらけ出して闘うつもりだ。

 

(このコーナーは毎月第4金曜日に更新します) 


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