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(写真:今大会のメンバーは1年生がゼロ。経験豊富な陣容で臨んだ)

 25日、大学団体日本一を決める「全日本学生柔道優勝大会」最終日が東京・日本武道館で行われた。男子決勝は東海大学が明治大学を下し、2年連続22度目の優勝を決めた。また前日に行われた女子は、5人制で山梨学院大学が4連覇、3人制で早稲田大学が連覇を達成した。

 

 昨年の優勝校・東海大は今年も強かった。連覇を果たし、最多優勝記録を22に伸ばした。

 

 全日本学生優勝大会は先鋒、次鋒、五将、中堅、三将、副将、大将の7人からなる団体戦。12人の登録メンバーから階級に関係なく配置できる。勝ちが1点、引き分けと負けは0点。7戦を終えて合計点数の高いチームが勝者となる。東海大は初戦となった2回戦から6-0、3-0で勝ち上がった。

 

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(写真:試合前には常に円陣を組んで士気を高めていた)

 無失点での準々決勝進出。盤石の体制を築いているようにも見えた。だが、東海大の上水研一朗監督の見立ては違った。「硬かった。2戦目(3回戦)が終わった時点でどうなることかと思いました」。就任10年目、これまで全大会でチームを決勝進出に導いている上水監督。対処法は心得ている。「最終的に突き動かすのは心の部分。ここを強調しました」。学生たちに声を掛け、気を引き締めさせた。

 

 準々決勝の日本体育大学を4-1で下す。準決勝の相手は2年前の決勝で敗れた筑波大学だった。「準決勝から学生たちのスイッチが入りましたね」と上水監督が振り返ったように強豪相手にも東海大の優勢は揺るがなかった。先鋒の前田宗哉(4年)が26秒での一本勝ちで勢いをつけると、次鋒の太田彪雅(2年)も優勢勝ちで続いた。

 

 五将と中堅で1点ずつ奪い合う。3-1で迎えた三将は、大黒柱のウルフ・アロン。上水監督はウルフが畳に上がる前に声を掛けた。「大量リードの時は気が緩みがちです。ウルフには気を緩めないようにした」。楽観はしない。最悪を想定するというリスクマネジメントが上水監督の指導法のひとつだ。

 

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(写真:主将としポイントゲッターとしての役割を全うしたウルフ)

 主将であるウルフも指揮官の思いに応える。対戦相手の根津信太(4年)はウルフの1階級上の選手。体重差が40kg近くある超重量級を何度も投げ飛ばした。一本勝ちこそ取れなかったが、4つの技ありを奪う完勝だった。ウルフ自身も「大きい相手をうまく転がせたんじゃないかと思います」と納得の出来で、決勝進出を決めた。その後も副将の影浦心(4年)、大将の村田大祐(3年)もポイントを取って、終わってみれば6-1の完勝だった。

 

 決勝には100kg超級の学生王者・小川雄勢(3年)擁する明大が勝ち上がってきた。5月に同じ日本武道館で行われた東京学生優勝大会決勝で対戦している。ウルフを欠いていたとはいえ、2-0の接戦。小川以外にも全日本柔道連盟の強化選手を揃える強豪であり、決して楽な相手ではない。

 

 東海大は次鋒の太田と中堅の奥野拓未(3年)で2点を取った。「引き分けで御の字。2点取れると思いませんでした」と上水監督は振り返る。特に太田の相手は明大のエース小川。最悪の想定をする上水監督にとって「うれしい誤算」以外の何物でもなかった。これで三将のウルフが勝てば優勝が決まる。それでも指揮官は「ウルフが勝つまでは何が起こるかわからない」と気を緩めることはなかった。

 

「流れを東海に引き寄せてくれた」。チームメイトの頑張りにウルフは静かに燃えた。田中源大(3年)を相手に攻め続けた。試合時間1分を過ぎたところで、大内刈りで技ありを奪った。最後まで相手に主導権を譲らず、制限時間の4分が終了。優勢勝ちで東海大の連覇を決定付けた。

 

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(写真:ベンチでも多くは語らない上水監督。効果的なアドバイスが光る)

 ここで上水監督は、決勝戦で大将に起用した影浦を傍に呼んだ。

「今日の勝負は終わりかもしれないが、次の勝負があるからそこを見据えた戦いをしなさい」

 最後まで上水監督らしい指導を貫いた。影浦は得意の背負い投げを何度も繰り出し、果敢に攻めた。引き分けに終わったものの、気の緩みは見られなかった。終わってみれば5試合で失点は2点のみで、王座は盤石だったと言っていいだろう。

 

 上水監督は就任10年目で9度目の優勝だ。常勝軍団の将は、ベンチで泰然自若。「ホッとしました」と口にはしたが、優勝が決まっても冷静だった。「もちろん喜びはしますが、勝った瞬間から次のことを考えてしまう。心の底から解放された喜びになるのは監督をやめた時でしょうね」。名門の指揮を執る苦悩の一端を覗かせた。

 

(文・写真/杉浦泰介)

 

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