この1カ月で僕の古巣の鹿島アントラーズに動きがありました。5月31日に監督の石井正忠を解任し、コーチの大岩剛を昇格させました。解任理由としては、<AFCチャンピオンズリーグ(ACL)2017での敗退を受けて、今季の成績を総合的に考慮した>(公式ホームページより)とのことです。勝負の世界ですから致し方ありません。常勝鹿島ならではの決断ですね。

 

 鹿島はACLのラウンド16で広州恒大に2戦合計2-2ながら、アウェーゴールの差で涙を飲みました。この敗戦を受けて、石井が監督を解任となりました。今季、鹿島はGKクォン・スンテ、MFレオ・シルバ、MFレアンドロFWペドロ・ジュニオールらを補強しました。これだけの補強をしたのですから、おそらくACL制覇は至上命題だったのかなと僕は思います。それに加え、リーグ戦でも解任前は7位に甘んじていました。

 

 石井前監督は2年に満たない期間で4つのタイトルをチームにもたらしました。昨年末にはクラブW杯の決勝で強豪レアル・マドリードを苦しめ、世界2位の大躍進。その功績があっても解任するあたりに鹿島らしさを感じます。去年までの功績はあくまでも過去のもの。鹿島は常に目の前の試合に勝つことを目指しているクラブです。それはジーコがクラブに植え付けてくれた考えです。常勝軍団ゆえの今回の監督解任です。クラブの判断を尊重したいと思います。

 

 さて、後任には大岩が指名されました。現役時代は2003年から2010年まで鹿島でプレーし、2011年からトップチームのコーチを務めていました。監督経験はないですが、鹿島を熟知している人物です。

 

 大岩新体制になり鹿島は公式戦4連勝。リーグ戦では暫定3位に浮上しました。とは言え、この短期間で大岩新監督のやりたいことは浸透していないでしょう。監督交代はカンフル剤のようなもの。出番に恵まれなかった選手はアピールのチャンスです。一方、レギュラーだった選手は外されてしまうかもしれないという危機感がある。監督交代は選手の競争心に火をつける意味合いもあります。大岩新監督に代わりMF中村充孝、MFレアンドロ、MF三竿健斗が出場機会を増やしていますが、とても良い事ですね。選手間に競争の原理が戻ったことが今の鹿島の好調の要因です。元々、ポテンシャルの高い選手たちです。大岩新監督の方針が浸透する頃にどんなサッカーを見せてくれるのか非常に楽しみですね。

 

 セーフティーファーストの徹底を!

 

 さて、13日にはロシアW杯アジア最終予選が行われ、日本代表はイラク代表と戦いました。イラクの情勢不安のため、中立地のイラン・テヘランでの開催でした。気温37.4度の厳しい環境の中、選手はよく走ってしましたが、結果は1-1の引き分け。勝ち点3は取れませんでした。ですが、8月31日に埼玉スタジアムで行わるオーストラリア代表戦に勝利すればロシア行きの切符が手に入ります。次に切り換えて頑張って欲しいです。

 

 試合は前半8分にFW大迫勇也が右CKからバックヘッドで合わせて先制しました。日本はその前から積極的にイラクゴールに襲い掛かっていた。シリア代表との親善試合は停滞気味でしたが、立ち上がりに関してはうまく修正できていましたね。

 

 試合を通してうまく全体でプレスをかけてボールを奪うことができていました。それだけに、失点シーンはもったいなかった。DF吉田麻也はゴール前のこぼれ球をGK川島永嗣にキャッチさせようとしました。ですが、敵が後ろから詰めてきていたあのケースは大きくクリアーをすべきです。ボールを大事にする気持ちもわかりますが、ゴール前はセーフティーファースト。もう一度、意思統一をしっかりとすべきですね。

 

 一方で収穫もありました。MF遠藤航、MF井手口陽介のダブルボランチ、センターバックのDF昌子源の働きは良かったです。特にダブルボランチは“ここで若手を使うのかぁ”と思いましたが、攻守においてチームに貢献していました。昌子は親善試合のシリア代表戦で吉田との連携不足を露呈したものの、きっちりと修正してきました。クラブW杯での経験、日頃鹿島で積んでいる経験があります。そして吉田と代表でセンターバックを組んだことで連携も深まってくるはずです。今後、さらに昌子のプレーに安定感が出てくるでしょう。

 

 この3人の台頭で守備陣の層も厚くなりました。ヴァイッド・ハリルホジッチ監督にとっても喜ばしいことですよね。若手とベテランの競争と融合がチームをより一層強くさせるはずす。次のオーストラリア戦では勝利を信じましょう。

 

●大野俊三(おおの・しゅんぞう)

<PROFILE> 元プロサッカー選手。1965年3月29日生まれ、千葉県船橋市出身。1983年に市立習志野高校を卒業後、住友金属工業に入社。1992年鹿島アントラーズ設立とともにプロ契約を結び、屈強のディフェンダーとして初期のアントラーズ黄金時代を支えた。京都パープルサンガに移籍したのち96年末に現役引退。その後の2年間を同クラブの指導スタッフ、普及スタッフとして過ごす。現在、鹿島ハイツスポーツプラザの総支配人としてソフト、ハード両面でのスポーツ拠点作りに励む傍ら、サッカー教室やTV解説等で多忙な日々を過ごしている。93年Jリーグベストイレブン、元日本代表。

*ZAGUEIRO(ザゲイロ)…ポルトガル語でディフェンダーの意。このコラムでは現役時代、センターバックとして最終ラインに強固な壁を作った大野氏が独自の視点でサッカー界の森羅万象について語ります。


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