1707kageura12「今、本物の実力をつけつつある選手」

 全日本柔道男子の井上康生監督は、東海大学の影浦心(4年)を高く評価する。昨年のリオデジャネイロ五輪で全日本男子を52年ぶりの全階級メダル獲得という快挙に導いた指揮官は、最重量級(100kg超級)のホープ・影浦に大きな期待を寄せている。

 

 それは次のコメントからも明らかだ。

「オールマイティーに何でもできるところが非常に良いですね。立っても寝ても良し。攻めても守っても良し。跳ね上げられるし、担げる。それでいて1つ1つの技がAレベル以上なのが彼の強みです。対戦相手にとっては非常に嫌な選手だなと思います」

 

 オールラウンダーな柔道家――。影浦の場合、それも高いレベルにあるという。世界選手権、オリンピックの出場経験はないが、着実に力を付けている。今年の世界選手権(8月、ハンガリー・ブダペスト)は国内選考会の全日本選抜体重別選手権で準優勝した。世界選手権への切符は惜しくも掴めなかったものの、全日本強化選手B(シニア)に入っており、今後も100kg超級の代表争いに加わってくるだろう。

 

 100kg超級とは思えぬ軽快さ

 

 影浦は重量級だが動きは俊敏である。運動神経も良くバク転もできるという。本人も「100kg超級にはないスピードに自信があります」と胸を張る。

 

 東海大で影浦を指導する上水研一朗監督は「重量級の中では異質な部類に入る」と彼を評する。

「影浦は重量級ですが、軽量級の捌きができるんです。瞬時にパパッと動ける。だから普通の重量級選手だと転がってしまう場面でも、彼はそう簡単にはいかない。あれほど機敏に動ける重量級はいません。影浦と戦う相手は相当嫌だと思いますよ」

 

 全日本男子を復活に導いた井上、常勝軍団の東海大で指揮を執る上水。その名将2人に影浦の実力は認められている。2人の証言で共通している点は、“敵にしたくない選手”ということだ。

 

1707kageura7「自分がやられて嫌なことは、絶対他の選手も嫌だと思う。それができることが強みじゃないですかね」。影浦も試合運びの巧さには自信を持つ。畳の上で冷静に戦況を見極め、余裕を持って戦うことができている。

「試合中も、まるで畳の外にいるような感じで見ることができています。審判の立場になって、“今、前へ出たら指導を取れるな”“下がったら指導取られる”というのがわかるようになりました」

 

 同い年のウルフ・アロン(東海大4年)とは寮も同部屋である。ウルフが主将、影浦は副主将。ウルフは100kg級で階級こそ違うものの、普段から行動を共にすることも多い。盟友の目に影浦は「かなりセンスがあると思います。技の入りだったり、タイミングが巧いんです。あとは身体のバランスも良いので、試合でもあまり投げられているところを見ないですね」と映っている。

 

 誰もが認める影浦の実力。しかし、これまで日の当たる場所ばかり歩んできたわけではない。彼の“柔道デビュー”は10歳。その頃から運動神経には自信のあった影浦だが、友人に連れられて行った道場で鮮やかな一本負けを喫していた。

 

(第2回につづく)

 

1707kageuraPF1影浦心(かげうら・こころ)プロフィール>

1995年12月6日、愛媛県松山市生まれ。階級は100kg超級。松山西中-新田高-東海大。10歳で柔道を始める。新田高2年時には全国高校総合体育大会で3位に入った。東海大進学後、2年時には全日本ジュニア体重別選手権大会と講道館杯全日本柔道体重別選手権大会で3位になった。3年時はアジア選手権大会、グランプリ・デュッセルドルフと国際大会で優勝。講道館杯では2年連続3位だった。身長180cm、体重115kg。得意技は背負い投げ。

 

(文・写真/杉浦泰介)

 

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