広島を本拠とする中国放送の「Veryカープ!」というTV番組の収録に参加した際、人気お笑いコンビ・ヴェートーベンの青井貴治から「バティスタはランスみたいな選手やったんですか?」との質問を受けた。

 

 ランスとは、また懐かしい。本名リック・ランセロッティ。1987年にカープ入りし、同年、39本塁打でホームラン王に輝いている。ただ、あまりにも確実性に欠け、打率2割1分8厘は規定打席に到達した中で最低。114三振はリーグワーストだった。

 

 バッティングは引っ張り専門。センターから左へのホームランは見たことがない。滅多にバットにボールが衝突しないものだから、当時流行していた金鳥のタンス用防虫剤「ゴン」のCMに引っかけ「ランスにゴン」とよくからかわれていた。

 

「はるかにバティスタの方が上でしょう」。一も二もなく私は答えた。確実性、将来性、加えて比類なきパワー。どれをとっても練習生上がりのサビエル・バティスタの方が上である。

 

 とにかく、その飛距離は桁外れだ。花火のシーズンに引っかけたわけではないが“たまや~”“かぎや~”の世界である。

 

 10日、横浜DeNA戦での逆転弾はマツダスタジアムのレフトスタンド後方の防球ネットを揺らした。ゆうに140メートルは飛んだだろう。「万有引力の法則」の存在さえ疑わせる衝撃弾だった。

 

 非メジャーリーガーで鮮烈なデビューを飾った外国人といえば元巨人の呂明賜が思い起こされる。台湾球界きっての長距離砲は、日本でも存分に存在感を発揮した。デビュー9試合で7ホームラン。ボールを根こそぎかっさらうような豪快なスイングには手つかずの「自然」が残されていた。

 

 話を“カリブの怪人”に戻そう。10日現在、12安打のうち実に7本がホームラン。長打率8割3分7厘。規格外のパワーヒッターをベンチに置いておくのは何とももったいない。だが、グラブを持たせると、首脳陣の血圧が心配になるレベルなのだ。4日の巨人戦では村田修一のレフトへの飛球を見失い、茫然と立ち尽くす姿があった。

 

 資源も磨かなければ資産にはなるまい。しかし磨きすぎると野生が失われる。なめしてツルツルにするくらいならゴツゴツの方が望ましい。首脳陣に問われるのは、その塩梅である。

 

<この原稿は2017年7月12日付『スポーツニッポン』に掲載されています>


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