左腕を振り抜いた直後、その反動でバネ仕掛けの人形のように体全体が躍動し、左手が天を衝くようにハネ上がるーー。その姿は“伝説のサウスポー”と呼ばれる若き日の江夏豊に重なる。

 

 

 今季の菊池雄星(埼玉西武)には死角が見当たらない。7月17日現在、8勝4敗、防御率2.03。日刊スポーツによれば開幕から12試合連続でのクオリティースタート(先発6回以上、自責点3以下)はパ・リーグでは楽天が優勝した13年の田中将大(開幕27連続)以来だという。

 

 マー君同様に、ギアを上げた時の投球は圧巻だ。150キロ台のストレートを連発し、力で打者をねじ伏せる。昨季の12勝(7敗)を上回るのは確実だろう。

 

「20年にひとりの逸材」と呼ばれたのは今から8年前、彼が花巻東高(岩手)3年生の時のことだ。下馬評通りの活躍で甲子園(春)準優勝の立役者となった。まさしく“みちのくの怪腕”だった。

 

 2回戦で対戦したのが明豊(大分)の今宮健太(福岡ソフトバンク)。今では球界を代表する名ショートだ。

 

「インコースにドーンとストレートがきました。食い込んでくるボールに対し、どのタイミングでバットを出していいのかわからなかった。あんなボール、初めて見ましたよ」

 

 秋のドラフトでは6球団の指名が競合したが埼玉西武が当たりクジを引き当てた。

 

 入団から間もなくしてインタビューの機会を得た。その大人びた受け答えに驚いた記憶がある。

 

「ただガムシャラにやるのではなく、自分を上から見るような感覚が必要だと思うんです。たとえばフォームを考える時も、自分の体を横から見るんじゃなく、天井から見た自分を脳裡に映し出す。そうすることで見えなかったものが見えてくる。これは私生活についても同じことが言えます。自分自身、調子に乗っているなとか、うぬぼれているなというのは、距離を置いて上から視線を注がないことには見えてこない」

 

 18歳にして、このコメント。かわい気がないと受け止めたコーチもいたようだ。

 

 花巻東の3学年下に北海道日本ハムの大谷翔平がいる。二刀流の後輩に対し、「天は二物を与えた」とかぶとを脱ぐ場面もあった。

 

 ともに目指すはメジャーリーグ。菊池の場合、早ければ2018年オフにもポスティングシステムを利用して海を渡る可能性がある。

 

 マー君のようにリーグ優勝、そして日本一を置き土産にしたいところだ。

 

<この原稿は『漫画ゴラク』2017年7月14日号を一部再構成したものです>

 


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