ジュビロ磐田のストライカー、川又堅碁が調子を上げてきた。
シーズン序盤こそチャンスに決めきれず苦しんだものの、ここ5戦で4発。通算7ゴールとなり、J1の得点ランキングで5位タイにつけている。チームも5連勝で7位浮上と勢いに乗っており、アダイウトン、中村俊輔と形成するトライアングルは相手の脅威となっている。
本人いわく、「いつも以上に勝負の年」だ。
アルビレックス新潟でリーグ2位となる23得点を挙げてブレイクしたのはもう4年前。徐々に出場機会を失っていき、移籍した名古屋グランパスでは一度もリーグ戦で2ケタ得点をマークしていない。代表も定着できなかった。岐路に立たされた彼に、声を掛けたのがジュビロを率いる名波浩監督であった。
「ストライカーとしてお前が欲しい」
正式オファーを受け、ジュビロへの完全移籍を果たした。「変わらんといかんし、下手は努力せんといかん」と鬼気迫るほどであった。
オフを削って筋力トレーニングに精力的に励み、背筋、大臀筋、ハムストリングス、体幹などを鍛えるデッドリフトは150㎏でこなすまでになった。持ち味のフィジカル能力にさらに磨きをかけた。ジュビロでも早くからチームに溶け込み、戦術理解に努めるとともに全体練習の後には名波監督が見守るなかで居残りのシュート練習にも励んだ。
練習は嘘をつかない。ここに来てようやくトレーニングの成果が出ている。筋力アップで増えていた体重を意識的に減らしたこともプラスに働いている。
だが川又の進化は、ゴールよりもむしろオフ・ザ・ボールでの貢献にある。
それを象徴するゲームが、6月18日のアウェイ、浦和レッズ戦だった。シュートこそゼロに終わったが、ゴール前での競り合いとカウンターにつながるロングパスで2得点に絡んだ。チャンスに絡んだ以上に、相手にプレッシャーを掛ける守備のタスクを最後までこなし、前線でファイトを続けたことが光った。名波監督はシュートゼロのストライカーを、交代させなかった。4発快勝劇を、「献身」で引っ張った。
彼はこの日2ゴールを挙げた松浦拓弥の活躍を誰よりも喜んでいた。先発から外され、控えに回った松浦の苦悩を間近で見ていたからだ。
「松ちゃんはいつも20分間、グラウンドの外周を速いペースで走っていました。『俺、なんで走ってんだよ』ってこぼしたこともありましたよ。俺が『監督は試合で活躍するために言ってんだから、ポジティブに捉えないとアカンやろ』と言うとすぐに『そうだよな』って。
だから松ちゃんも監督の気持ちを分かってるんですよ。自分からポジティブに走ろうとする姿に心を打たれました。自分のゴールよりもうれしかった」
そして、彼は言葉を続ける。
「チームで点を取れればいい。勝ちゃいいです」
勝つために全力を注ぐ。ストライカーとして得点に絡む仕事をこなしつつ、周りを助ける働きが今年はより目立っている。
成長を促してくれる名波監督のために――。その思いは、強い。
「監督はいつも選手目線で話をしてくれる。自分たちがやれるのは、試合で勝つこと。結果を出せば監督の価値が上がるわけじゃないですか」
台風の目ジュビロに、川又の献身あり。
彼の活躍には、まだまだ続きがありそうだ。
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