大相撲名古屋場所は21日、13日目を迎え、横綱・白鵬(宮城野)が大関・高安(田子ノ浦)を押し倒しで破った。白鵬は入門からの通算勝利数を1048として、元大関・魁皇(現・浅香山親方)の記録を抜き、史上1位となった。ここまでの通算成績は1048勝219敗58休。既に史上最多となる38回の優勝回数を誇る白鵬。今回の記録更新で、名実ともに稀代の大横綱として歴史に名を残すこととなった。

 

 前日に魁皇の記録に並んだ白鵬の相手は新大関の高安だ。立ち合いは少し右に変わり気味に立ち、高安の体勢を崩す。そこからは一切まわしを狙うことなく、左ののど輪と右のおっつけで攻め続けた。対する高安は防戦一方の展開。最後はおっつけからの押し倒しで白鵬が記念の白星を完勝で飾った。

 

「組んでよし、離れてよし」の横綱である。白鵬の得意型といえば右四つ左の上手。あっという間に右を差し込み、いつの間にか自分優位の体勢にしてしまう横綱相撲で勝ち星を量産してきた。しかし30代を超えたころから、年齢やケガの影響からか少しずつ取り口が変わってきた。

 

 典型的なのが12日目の玉鷲戦だ。白鵬はまわしには目もくれずに攻めた。この日見せた左の張り手からの右かちあげという流れは、ここ数年白鵬が得意とする立ち合いである。そこから張り手を続けざまに打つ荒々しい相撲。だがそれによって体勢が乱れることはなく、常に先に攻めて勝ちに結び付けた。押し相撲の玉鷲のお株を奪う、圧倒的な勝ち方である。

 

 かといって従来の四つ相撲が影を潜めたわけではない。2日目の栃ノ心戦は、両者得意の右四つ左上手でがっぷり四つ。白鵬はまわしを切るなどの小技を一切使用することなく、怪力の栃ノ心相手に真っ向からの力勝負を受けて立ち、最後は寄り切りで勝利した。まさに変幻自在。相手の取り口やその日の体調などに合わせ、あらゆる相撲に対応できるのが白鵬という力士である。その真骨頂を今場所でも遺憾なく見せつけている。

 

 魁皇が千代の富士の1045勝を抜いた時は既に引退寸前であった。一方の白鵬は未だ現役最強の力士として君臨しながらの記録更新である。近年、白鵬は場所の後半に息切れし、賜杯を逃す場所が多かったため、体力の衰えを指摘する声が高まっていた。だが名古屋場所は終わってみれば白鵬の場所となりそうだ。12勝1敗で単独トップ。明日にも39度目の優勝が決まる可能性がある。

 

 白鵬は日本国籍を取得する意向を持っているという。実現すれば引退後は一代年寄として親方になれる。だが常々、2020年東京五輪まで現役を続けると公言している。土俵での戦いを見れば、それが非現実的とは思えない充実ぶり。前人未踏の1048勝も、単なる通過点として過ぎ去りそうである。

 

(文/交告承已)