7月19日、甲子園で行われた阪神対広島で解説者を務めました。試合は3-14と阪神が大敗を喫しましたが、この試合にはシーズンの今後を占うポイントが2つありました。今回はそれについてお話しましょう。

 

 勝てないルーキー小野

 この試合、阪神の先発はルーキーの小野泰己でした。小野は富士大からドラフト2位で指名された右腕で、150キロを超えるストレートと落差のあるフォークボールが武器です。特にストレートの威力は入団当初から「プロでも十分通用する」と言われていました。実際、ここまで8試合に先発して32奪三振、小気味のいいピッチングが身上です。だが、未だに勝ち星に恵まれません。小野になかなか勝ちがつかないのはどうしてなのか? 私も色々な所で聞かれます。

 

 まずは小野のテンポの良さが逆に徒になっている部分があります。ポンポンポンと追い込んでいく気持ちのいい投球が持ち味の小野ですが、ゲームのテンポがよくなることで相手にもテンポを与えている印象があります。そうなるとひとつのミスやフォアボールで流れが変わってしまう。テンポの良さの中にも強弱、緩急をつける投球術が必要になってきます。

 

 力はあると言ってもまだルーキーです。相手の打順が3巡目となるとボールのキレが落ちたところを痛打される。プロで経験を積むとそういうときの対処もできるのですが、ルーキーということで1本ヒットを打たれるとさらに向かっていって連打ということが多々あります。

 

 ひとまずそういうときには初心に戻り、先頭打者を必ずアウトにする、フォアボールは出さない、そうした丁寧さが求められます。なかなか勝てないことで焦りも出てくるでしょうが、力はあるピッチャーなのでこの壁を乗り越えてほしいですね。

 

 大和でなく西岡外野の理由

 阪神は西岡剛が約1年ぶりにグラウンドに戻ってきました。アキレス腱断裂で引退まで考えたことを思えば、本当によく復帰できたな、と1年間の彼の努力に頭が下がります。

 

 今の阪神は若い選手が多いのでベンチでもグラウンドでも雰囲気をガラリと変えられる西岡は貴重な存在です。今は不慣れな外野手で起用されていますが、そこでもガムシャラに頑張っている姿には他の選手は色々と感じることがあるでしょう。

 

 ただ、阪神というチームは良くも悪くも注目度が高く、メディアやファンなど周囲の声が大きなチームです。今は「不慣れな外野でもようやってる」「あんなのしゃーないしゃーない」で済んでいる西岡の外野守備ですが、それがいつどう変わるか。

 

 例えば今は投手陣も西岡の守備を「仕方ない」と思っていても、この先、首位争いになったときにどうなるか。そのときにも同じく「仕方ない」で済むのかどうか、そして周囲の声はどうなるのか……。そういうことを考えると、西岡の外野手起用には疑問符がつきます。糸井嘉男の穴を埋めるなら大和を外野に入れれば済む話ですからね。

 

 そうしなかった金本知憲監督以下、首脳陣の狙いは本職の外野手、特に若手への刺激だと思われます。2年目の高山俊はルーキーの昨季ほどの活躍ができていないし、他の若手もドングリの背比べ状態です。そこで外野経験のほとんどない西岡を外野で使うことで外野手の競争を期待してるのでしょう。"西岡外野手"というスパイスがどういう変化を生むのか、後半に向けての阪神が楽しみです。

 

 プロ野球の他、今は高校野球の地方大会が真っ盛りです。8月になれば甲子園も始まります。今年は早稲田実業(東京)の清宮幸太郎クンに注目が集まっていますが、あの長打力はすごいですね。まあ清原和博さんなどと比べるとスケールは小さいですが、素材としては魅力的です。どこまで通用するのか、どんなバッターになるのか。という期待も含めて是非、プロに来てほしい選手です。

 

 現在、清宮フィーバーが巻き起こっていますが、高校野球というのは不思議なもので、主役以外にも逸材や隠れたヒーローが現れるものです。私も毎年、甲子園の1回戦2回戦はテレビで全試合チェックしています。出場校全部を見て、自分だけの逸材を見つけるのが楽しみなんですよ。いずれにしても夏は3年生にとって最後ですから悔いのない戦いをしてほしいですね。自分自身は甲子園に出たものの控え投手だったので決勝戦で投げられなかった。それが発奮材料となって大学、プロで活躍できたと思っています。

 

 

image佐野 慈紀(さの・しげき)
1968年4月30日、愛媛県出身。松山商高で甲子園に出場し準優勝を果たす。卒業後に近大呉工学部を経て90年、ドラフト3位で近鉄に入団。その後、中日、エルマイラ・パイオニアーズ(米独立)、ロサンジェルス・ドジャース、メキシコシティ(メキシカンリーグ)、エルマイラ・パイオニアーズ、オリックス・ブルーウェーブと、現役13年間で6球団を渡り歩いた。主にセットアッパーとして活躍、通算353試合に登板、41勝31敗21S、防御率3.80。現在は野球解説者。


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