球場充足率という用語がある。要するにスタジアムにおける埋まっている席数の割合だ。12球団の中で球場充足率トップ(2016年)は福岡ソフトバンクの本拠地ヤフオクドームの93.6%、2位が広島の本拠地マツダスタジアムの93.5%。12球団平均は82.9%だった。

 

 広島の都市圏人口が約143万人であるのに対し、北九州・福岡の都市圏人口は約400万人。それを考えれば広島は大健闘といっていい。

 

 また、こんなデータもある。都道府県民(阪神の場合は兵庫県と大阪府の平均)が本拠地球場に足を運ぶ割合。中国電力エネルギア総合研究所の調査によると広島がトップで1.1%、次いで東北楽天1.0%、ソフトバンク0.7%の順だった。

 

 リーグ連覇に向け、首位を独走する広島。躍進の陰に総天然芝で、アミューズメント性にすぐれた野球場の存在があることは、小欄でも何度か触れた。

 

 ヒトが集まればモノも売れる。04年に約63億円だった球団の売上高は16年、148億円に達した。実に約2.5倍である。グッズ収入だけで約36億円。球場が生み出す潤沢な資金が選手年俸や強化・育成費用に還元され、広島には新黄金期が到来しつつある。

 

 新球場にはきたるべき超高齢社会に向けた仕掛けもある。それは観客を新球場のコンコースへ誘導する長さ200メートル、幅10メートルの大型スロープだ。これを設計し、提案したのが環境建築家の仙田満である。「施主からすればエレベーターの方が安い。しかしエレベーターはメンテナンス費用が出せなくなれば止まってしまう。スロープなら障がい者の車椅子を健常者が押したり、お年寄りと連れ立って歩くことでコミュニケーションが生まれ、多様性も確保できる。マツダのスロープは約3億円。総工費が約90億円だから約3%です。だが集客への貢献は30%以上だと僕は考えています」

 

 そして、こう付け加えた。「それにねぇ、ちょっとくらい歩いた方が皆、元気になるんですよ」。エレベーターよりもスロープという視点は斬新だった。歩き、話し、支え合う。それも含めてスポーツ観戦の妙味である。

 

<この原稿は2017年7月26日付『スポーツニッポン』に掲載されています>


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