(写真:コートサイドから目を光らせるシグルドソン監督<中央黒いシャツ>)

(写真:コートサイドから目を光らせるシグルドソン監督<中央黒いシャツ>)

 29日、ハンドボールの日韓定期戦が東京・駒沢体育館で行われた。男子日本代表は拮抗した展開で試合は進んだ。一時は韓国をリードする場面もあったものの、終盤に逆転された。それでも終了間際にRW渡部仁(トヨタ車体)が決めて、28-28で引き分けた。一方の女子日本代表は序盤までは互角の試合を見せたが徐々に突き放され、25ー35で完敗。アジア選手権決勝で敗れた強豪国相手に雪辱はならなかった。

 

 名将の指導に手応え 

 

 新監督の初陣はドロー発進となった。男子日本代表監督のダグル・シグルドソンは2月に就任したばかり。アイスランド出身のシグルドソン監督はドイツ代表をリオデジャネイロ五輪で銅メダル獲得に導いた実績を持つ世界トップレベルの指導者だ。

 

(写真:7mスローを止めるなど再三好セーブを見せた木村)

(写真:7mスローを止めるなど再三好セーブを見せた木村)

 試合は点の取り合い。一進一退の攻防が続く。17分4秒、シグルドソン監督はここでタイムアウトを要求した。しかし直後にカウンターでピンチに。ここはLW宮﨑大輔(大崎電気)がプレッシャーをかけ、サイドへ追い込む。そして相手のシュートをGK木村昌丈(大崎電気)がセーブ。RW元木博紀(大崎電気)が右サイドから着実に決めてリードを奪った。

 

 これで勢いに乗るかと思われたが、韓国も黙ってはいなかった。9-9の同点から3連続得点を奪われ、日本は3点のビハインド。追いかける展開となったが、CB門山哲也(トヨタ車体)、渡部、PV笠原謙哉(トヨタ車体)が決めて追いついた。日本は終了間際に失点し、12-13で試合を折り返した。

 

(写真:高校生の部井久をデビューさせるなど若手を積極的に起用)

(写真:高校生の部井久をデビューさせるなど若手を積極的に起用)

 後半開始直後に1点を奪われた日本は宮﨑の得点など韓国に迫る。時にはGKを下げてCPを入れる7人攻撃を駆使してゴール狙う。前半同様に点の取り合いとなった。11分43秒、18-19で日本がビハインドの場面で韓国選手が2分間の一時退場。日本はこの好機を生かし、渡部とRB徳田新之介(筑波大)が決めて逆転した。

 

 スコアが22-22となると、17分にLB成田幸平(湧永製薬)、18分1秒にLW小澤広太(大崎電気)がゴールネットを揺らす。シーソーゲームの流れが日本に傾きかけたと思われたが、18分27秒に中央で身体を張っていたPV玉川裕康(国士舘大)がファールで一時退場を宣告される。数的不利に陥った2分間、日本はリードを守り切れなかった。

 

 終了間際にはパスミスが目立つなどチャンスを生かせない。29分26秒、韓国に勝ち越され、残り1分を切った状況でビハインドを背負う。最後のタイムアウトをかけ、攻撃のプランを確認。終了間際には渡部がシュートをゴールネットに突き刺して、土壇場で追いついた。対韓国戦の通算戦績を13勝3分40敗とした。大きく負け越してはいるものの、近年は韓国とは好勝負できるようになってきている。

 

(写真:36歳の宮﨑も攻守で健在をアピール)

(写真:36歳の宮﨑も攻守で健在をアピール)

 キャプテンのLB信太弘樹(大崎電気)は「イーブンになってきているし、これ以上、差が開くこともないと思います。僕らも若い選手がたくさんいるのでのびしろがある。これから先は勝っていけるようにしたい」と語る。守護神の木村は「今までは遠い存在だったが、手の届く存在。良いライバルとして向き合っていきたい」と続けた。

 

 シグルドソン監督は「ディフェンスとGKが良かった」と守備面を評価したように相手のボールを何度も奪う場面が見られた。守護神の木村は12本のシュートをセーブし、攻撃に繋げた。シグルドソン監督の指導は「1つ1つに細かい」(信太)と戦術的に突き詰めることもあれば、「毎回自分たちをしっかり見て、考えてメニューを組んでくれている」(木村)という。名将の手ほどきを受けて、選手たちも成長に手応えを感じているようだった。

 

 中身が違う10点差

 

(写真:キルケリー監督「」)

(写真:ベンチに戻ってきた選手たちに指示を送るキルケリー監督)

 女子日本代表はアジアの強敵に対して喫した通算50敗目。世界選手権予選を兼ねたアジア選手権決勝に続き10点差で敗れた。それでも光明が見えなかったわけではない。

 

 対戦相手の韓国は2度の金メダルを含む、オリンピックで通算6度の表彰台に上がった強豪国だ。日本代表のウルリック・キルケリー監督によれば「ほぼベストメンバー」という布陣で日本に乗り込んできた。一方で日本はヨーロッパのクラブでプレーするGK亀谷さくら、RW池原綾香を欠き、ケガ人も含めアジア選手権からは5人メンバーが入れ替わった。

 

 序盤はCB横嶋彩(北國銀行)、RW藤田明日香(ソニーセミコンダクタマニュファクチャリング)が得点を重ねて競った展開になった。だがLB塩田沙代(北國銀行)が「私たちが重視しているのはディフェンス。出だしに押される局面が多く、リズムを掴むのが遅れた」と語ったように内容は韓国寄りだった。

 

 15分16秒、韓国が1点リードの場面でタイムアウトを取った。するとそこから立て続けに3点を奪われ、突き放される。日本もタイムアウトを使って、流れを引き戻そうとするが逆に2点決められてしまう。22分44秒には塩田がファールで2分間の一時退場を宣告され、数的不利の苦しい展開へ。この窮地に踏ん張り切れず、9-19と10点差を付けられ、前半を終えた。

 

(写真:原<24>、塩田<5>が守備に奮闘したが、韓国の攻撃を封じ切れなかった)

(写真:原<24>、塩田<5>らが守備に奮闘したが、韓国の攻撃を封じ切れなかった)

 キャプテンのCB原希美(三重バイオレットアイリス)はこう振り返る。

「自分たちのディフェンスの間でフォローができずやられてしまった。オフェンスでは消極的なプレーでミスを連発し、そこから失点していまい相手に流れを持っていかれた」

 攻めあぐねる場面もあり、韓国に離されてしまった。

 

 キルケリー監督はハーフタイムにディフェンスの修正を指示。その効果は表れていたと言っていいだろう。「深く守るディフェンスが効いて、自分たちの流れになった」と原。日本が優位に運んだ時間帯もあり、点差を詰める場面も見られた。だが韓国も再び息を吹き返し、得点を重ねる。終わってみれば25-35で敗れた。

 

 これで対韓国戦は9連敗。キルケリー監督も「まだまだ韓国が強いチームだと見せつけられた」と完敗を認めた。身体を張ったディフェンスで奮闘した塩田は、その強さを「個人技があり、足を一歩出す速さがある。スペースに潜り込んでくる判断に長けています。勝負どころの時間帯で点を取りにきて、流れがきている時のゲームの運び方が巧い」と感じたという。決めるべきところは着実に決めてくる。そんなしたたかは試合でも見られた。

 

 アジア選手権と同じ10点差の敗戦ではあるが、その中身は違う。キルケリー監督は言う。

「前の日韓定期戦は20点差(17-37)だった。(リオ)オリンピック予選も同じような差(21-35)だったと思います。今日は主力が5人抜けていることを考えると、この1年での成長に満足している」

 

(写真:スピード生かし、カウンターを仕掛ける藤田<中央>)

(写真:スピード生かし、カウンターを仕掛ける藤田<中央>)

 この試合では21歳の藤田の活躍が目立った。シュートは8本全てゴールに繋げた。キルケリー監督も「すごく良かった。今日は本当によくやってくれた」と高く評価。藤田の持ち味であるディフェンスからの速攻、サイドシュートでネットを揺らした。右サイドから冷静にGKの反応を見極め、ループでも決めた。藤田本人は「池原さんが抜けたことで私がスターター。穴を埋めようと自覚を持って、“1本1本のシュートを大事にしよう”と臨んだことが結果に繋がったのかと思います」と口にした。

 

 チーム全体としても今後に向けて光は見えた。ディフェンス面で修正を加えた後半のスコアは16-16のタイ。原が「これからに繋がるゲーム展開ができた」と胸を張れば、藤田も「これまでは韓国に“強い”というイメージがありましたが、段々勝てる気がするし、チームの皆もそう感じていると思います。次は勝ちます」とコメントし、確かな手応えを感じている。

 

「まずはディフェンスを強くしたい。1対1の守備での位置取りのミスもあった。まだ簡単なミスが多いがそれには経験が必要です」とキルケリー監督。強くなるための特効薬はない。地道に積み上げていくことが大事だ。アジア選手権で出場権を勝ち取った12月の世界選手権(ドイツ)は、“発展途上”の日本にとっては貴重な場である。この日、見られた光を更に大きなものにしたい。

 

(文・写真/杉浦泰介)