V9巨人のエース堀内恒夫の身長は178センチだ。巨人に入団した頃は176センチだったと記憶している。野球雑誌には「長身の本格派」と書かれていた。東のエースが堀内なら西のエースは阪神の江夏豊だ。現役時代の身長は178センチ。入団間もない頃のスポーツ紙には「大型サウスポー」との記述がある。ことほどさように1960年代から70年代にかけては175センチを超える投手は「長身」であり「大型」だった。今の時代、175センチをちょっと超えたくらいの投手を、誰も「長身」や「大型」とは呼ばない。

 

 参考までに言えば日本人男子(30歳代)の平均身長(国民健康・栄養調査)は1950年には160.6センチだった。170センチを初めて突破したのは1994年、2015年は172センチである。

 

 余談だが、社会実情データ図録によると<男は身長以上に体重の増が著しい>とのこと。<1950年から2010年への増加率は25.9%の伸びと身長の3倍以上の増加率となっている>。タテよりもヨコに伸びているということか。

 

 閑話休題。日本人MLB投手の身長も調べてみた。ダルビッシュ有(ドジャース)196センチ、岩隈久志(マリナーズ)191センチ、田中将大(ヤンキース)191センチ、上原浩治(カブス)188センチ、前田健太(ドジャース)185センチ、田澤純一(マーリンズ)180センチ。6人の平均身長は約189センチ。昔なら皆、大男だ。

 

 ピッチャーにとって長身が有利なのは言うまでもない。オーバーハンドの場合、ボールに角度がつく。身長174センチの桑田真澄はボールに角度をつけるため伝説の大投手・沢村栄治のフォームを参考にしたと語っていた。サイドハンドやアンダーハンドの場合はそこまで有利不利はないとはいえ、身長はリーチの長さに一定程度、比例する。しなやかな腕の振りは短いリーチでは得られない。

 

 北海道日本ハムから中日に電撃トレードされた谷元圭介は公称167センチである。投手陣の練習風景を見ていると大人の中にひとり子供が交じっているような印象を受ける。あの小さな体のどこに年間50試合以上登板するタフネスが宿っているのだろう。「子供に夢を与える」と言うプロ野球選手が多い中、谷元の奮闘は「小柄な子供たち」にも夢を届けている。“小よく大を制す”熟練の技巧に一層磨きをかけてほしい。

 

<この原稿は2017年8月2日付『スポーツニッポン』に掲載されています>


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