早いもので2017シーズンも半ばへと差し掛かり、トップチームはリーグ戦と並行してカップ戦を闘う時期を迎えた。

 

 6月21日(水)、第97回天皇杯全日本サッカー選手権大会の2回戦「愛媛FC対カマタマーレ讃岐」の一戦が、ニンジニアスタジアムにて開催された。

 

 アウェイの東京ヴェルディとのリーグ戦を終えて、中3日で迎える天皇杯2回戦。連戦と長距離移動による疲労が気になるが、ホームアドバンテージを活かし、何としても勝利を手に入れたい。

 

 今回の愛媛は、GKを始め、普段のリーグ戦のスターティングメンバーから大きく変更した布陣で戦いに臨んだ。間瀬秀一監督は試行錯誤の末、この決断に至ったのだろう。

 

 愛媛は序盤から細かくパスを繋ぎながら敵陣へと攻め入る。だが、なかなか得点には至らない。その後も、MF神田夢実選手のミドルシュートなど惜しいシーンは訪れたが、先制ゴールを決めるには至らなかった。スコアレスで試合を折り返す。

 

 後半に入っても愛媛は積極性を失わず、サイドのスペースを利用した素晴らしい攻めを見せた。“ゴールも時間の問題か……”そう思った矢先だった。15分にセットプレーから先制点を奪われてしまった。

 

しかし、選手たちは思わぬ失点にも慌てなかった。力強いサポーターのチャントを背に、反撃の狼煙を上げる。

 

 37分、愛媛がコーナーキックのチャンスを得る。右コーナーからMF近藤貴司選手がセンタリングを試みるがミスキック。それでも、上手く立て直し、ゴール前にクロスを供給。このボールをFW丹羽詩温選手がワントラップでボールを足元に収め、半身の構えから素早く右足を振り抜いた。シュートはGKの脇を擦り抜け、ゴールネットを揺らす。ルーキーの活躍で、ついに追いついた。

 

 更に、その4分後には愛媛のカウンターが炸裂した。相手のパスを自陣でカットした近藤選手が中央をドリブルで駆け上がり、センターサークル付近から敵陣右サイドに開いたFW鈴木隆雅選手へパスを送る。ペナルティーエリア付近までボールを持ち込んだ鈴木選手が、ゴール前にクロスを供給。これをFW有田光希選手がDFを背負いつつ、身体を捻りながらヘディングシュートを放った。ボールはGKの伸ばした手の先を擦り抜け、ゴールマウスへと突き刺さった。終盤での劇的な逆転ゴールに大歓声が沸き起こる!

 

 このゴールが決勝点となり、愛媛が2対1で勝利し、3回戦への進出を決めた。

 

 数分間に起きた悪夢

 

 7月12日(水)に行われた3回戦。対戦相手はJ1の大宮アルディージャという難敵だが、2回戦に続いてのホーム開催である。もう一度、地の利を活かし、天皇杯名物の“ジャイアントキリング”を何とか達成したい。

 

 照明灯がピッチを浮かび上がらせる中、時刻は午後7時を廻り、試合がスタート。

 

 覚悟はしていたが、序盤から自陣に押し込まれ苦しい展開が続く愛媛。アウェイで行われたV・ファーレン長崎とのリーグ戦から中2日である。過密日程によるコンディション不良が選手たちの足枷になっているのかもしれなかった。

 

 そんな中でも、愛媛は少ないチャンスを活かそうとした。前半38分、近藤選手が相手DFラインの裏に抜け出しシュートを放つが、惜しくもGKに阻まれゴールならず。

 

 攻撃は単発に終わるものの、守備陣が踏ん張り0対0のまま前半を終了した。

 

 後半に入っても粘り強い守備を見せていた愛媛だったが、後半26分に自陣左サイドからクロスを上げられ失点。大宮に先制を許してしまった。

 

 それでも諦めない愛媛はカウンターやサイドのスペースを活かした攻撃から反撃を試みる。後半45分、敵陣右サイドのMF白井康介選手からボールを受けた近藤選手はDFを縦に振り切るとゴール前にクロスを上げた。DFに当たりコースが若干変化したクロスボールは直接ゴールマウスへと吸い込まれた。土壇場での奇跡の同点ゴールにスタジアムは大歓声に包まれた。

 

 その後、スコアは動かず1対1で後半終了。試合は延長戦に突入した。

 

 熱戦が繰り広げられる中、延長前半も得点表示は変わらず、いよいよ延長後半戦へ。

 

 6分だった。DFラインの裏に抜け出し、ペナルティーエリア内にドリブルで侵入した近藤選手が、相手GKに倒された。ファウルの判定で愛媛がPKのチャンスを獲得した。キッカーはファウルをもらった近藤選手。長めの助走から右足を鋭く振り抜くと、ボールはGKの逆を突き、見事にゴール右隅に突き刺さった! これでスコアは2対1。J1クラブを相手に、ついに愛媛が逆転を成し遂げた。スタジアムに歓喜の輪が広がっていく。

 

 勝負は決まった、と思い始めた14分、敵のパワープレーに対応しきれず同点ゴールを許してしまった。更にアディショナルタイムには、自陣ゴール前での混戦の中から相手にPKを献上。これを決められ万事休す。直後に試合終了を告げるホイッスルが、無情にも鳴り響いた。僅か数分間に起きた悪夢のような展開だった。

 

「あぁ、悔しい……」

 少しの間、ショックは尾を引きそうでつらい。

 

 結局、2対3で愛媛の敗戦となった。負けはしたが、難敵をあと一歩のところまで追い込んだ選手たちの戦い振りは、本当に素晴らしかった。

 

 試合終了後、愛媛の選手たちが疲労困憊の中、サポーターのもとへ挨拶に来てくれた。悔し涙を浮かべている選手もいて、どれ程の思いを持ってこの試合に臨んでいたのかが伝わってきた。死力を尽くし120分間を戦い抜いた選手たちには、スタンドから労いの言葉と温かい拍手が、いつまでも送られていた。

 

 選手たちを含め、この日、悔しい思いをした全ての人々が、成長の機会を手に入れたのではないだろうか。今後の試合や人生の局面で活かしていければ、この悔しさは、決して無駄にはならないだろう。

 

<松本 晋司(まつもと しんじ)プロフィール>

1967年5月14日、愛媛県松山市出身。愛媛FCサポーターズクラブ「Laranja Torcida(ラランジャ・トルシーダ)」代表。2000年2月6日発足の初代愛媛FCサポーター組織創設メンバーであり、愛媛FCサポーターズクラブ「ARANCINO(アランチーノ)」元代表。愛媛FC協賛スポンサー企業役員。南宇和高校サッカー部や愛媛FCユースチームの全国区での活躍から石橋智之総監督の志に共感し、愛媛FCが、四国リーグに参戦していた時期より応援・支援活動を始める。


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