昨季の先発ローテーションから黒田博樹が引退し、クリス・ジョンソンが戦線を離脱するなか、2年続けて奮闘しているのが野村祐輔である。昨季の最多勝投手(16勝3敗)は今季も8月2日現在、7勝4敗、防御率2.45と安定したピッチングを続けている。

 

 しかし、ネット裏のOBの声は「完投がない」「もっと長いイニングを投げなくちゃ」と一様に手厳しい。確かにここまで、野村に完投はひとつもない。最長イニングは4月25日の巨人戦(マツダスタジアム)での8回だ。

 

 敢えて野村を弁護するが、波の少ないピッチングは先発ピッチャーの手本だ。安定感を示す指標のひとつであるQS(クオリティー・スタート)率は76.5%である。

 

 近代野球において、先発投手の一番の使命は「ゲームを壊さない」ことである。とりわけ強打を誇るカープのようなチームにあっては、前半で大量リードさえ奪われなければ何とかなる。野村が5回までにマウンドを降りたのは腰痛に苦しめられた5月23日のヤクルト戦の1回だけだ。

 

 6回、あるいは7回を2、3点以内にまとめることができる野村なら、継投の計算が立ちやすい。事実、あるリリーフ投手は「(野村さんが先発の時は)準備しやすいから、緊張感を持ってゲームに入っていくことができる」と語っていた。

 

 8月1日の阪神戦は6回を2失点。7回・中田廉、8回・中崎翔太、9回・今村猛のリレーで4対3で逃げ切った。終わってみれば4対3。本当に強いチームは僅差で逃げ切ることができる。リードしたままでバトンを渡す野村の安定感は、もっと評価されてしかるべきだ。

 

(このコーナーは二宮清純が第1、3週木曜、書籍編集者・上田哲之さんは第2週木曜を担当します)


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