男子100メートルの世界記録保持者(9秒58)でオリンピックの同種目で3つの金メダル(08年北京、12年ロンドン、16年リオデジャネイロ)を持つウサイン・ボルト(ジャマイカ)が、現在開催中の世界選手権を花道に、今シーズン限りで引退するという。

 

 

 その理由を本人は「陸上で欲しいと思ってきたものは全て手にしてきた」と語っている。30歳という年齢や故障が原因ではない。すなわち余力を残しての引退ということのようだ。

 

 引退後はプロのサッカー選手に転向する意向を示している。「世界でトップ50に入る選手になる」ことが目標とか。9月にはブンデスリーガの名門ドルトムントで練習する予定だ。

 

 現役引退後、他競技に転向して成功した100メートル五輪金メダリストといえば、真っ先に思い浮かぶのが64年東京大会の「黒い弾丸」ことボブ・ヘイズ(米国)だ。準決勝では追い風参考ながら9秒9を叩き出し、人類で初めて10秒の壁を破った男として記憶されている。

 

 東京での金メダルを手土産代わりに65年、ヘイズはNFLのダラス・カウボーイズに入団しワイドレシーバーとして活躍した。スーパーボウルにも2度出場し、NFL王者にもなった。

 

 ただヘイズの成功はあらかじめ約束されたものだった。フロリダ農工大時代から俊足のワイドレシーバーとして注目を集め、東京五輪前にカウボーイズからドラフト指名されていた。五輪後のプロ転向は既定路線だった。

 

 ヘイズと違ってボルトの場合、サッカー選手としてのキャリアが明らかに不足している。スピードと身体能力については折り紙付きだが、パスの出し手との呼吸が合わなければ全部オフサイドになってしまう。それ以上に足元の技術が気になる。

 

 そう言えば、88年ソウル五輪でドーピング検査に引っかかり金メダルを剥奪されたベン・ジョンソン(カナダ)は一時期、イタリアでプレーするサッカー選手の個人トレーナーをしていたことがある。ボルトの可能性と限界について聞いてみたい。

 

<この原稿は2017年8月7日号『週刊大衆』を一部再構成したものです>

 


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