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(写真:リング上に集まる仲間たち。興行は大日本プロレスの全面協力で行われた)

 14日、悪性リンパ腫で闘病中の垣原賢人の復帰戦興行「カッキーライド」が東京・後楽園ホールで行われた。オープニングマッチに登場した垣原はUWF時代の恩師である藤原喜明と対戦。約10分間、リング上で躍動した。1000人を超える観衆の前で復活をアピールしてみせた。

 

 5年9カ月ぶりのリング。垣原がその場所に選んだのは、11年前の引退試合の地であり、UWFが誕生した地でもある後楽園ホールだ。復帰戦に予定していた3月の試合が雨で流れたため、この聖地での開催となった。今回の復帰戦は、垣原によれば「UWFの世界観」をテーマにしている。UWFのテーマソングが流れ、UWFルールで行われた5試合では打撃の音が場内に響き渡る。Uの香りが後楽園ホールを包んだ。

 

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(写真:関節技のエキスパートに果敢にも挑んだが、一本は取れなかった)

 第1試合にしてメインイベントとも呼べる垣原vs.藤原は、「UWFの頃の忘れ物を取りに行く」という垣原の想いから実現した。垣原にとって藤原は入門テストを受けた際の恩人だが、道場ではタイミングが合わず胸を借りることができなかった。“関節技の鬼”と呼ばれる藤原とのスパーリングは「心残り」のひとつだった。ガンを克服した先輩でもあるだけに、特別な意味を持つ試合だ。

 

 時間無制限という特別ルールの道場スパーリングマッチ。セコンドには、中止となった3月の復帰戦で対戦予定だった桜庭和志がついた。垣原は闘病中とは思えぬ軽快な動きをリング上で見せた。しかし、藤原は齢68歳になっても現役マットに上がり続けているレスラーだ。次々と関節技を極め、垣原から何度もタップを奪った。垣原が腕を取り、足を取るなど極めにかかっても気が付くと形成は逆転している。老練で巧みなサブミッション・テクニックを披露した。

 

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(写真:「何もできない自分が悔しかった」と、大先輩で恩人の藤原に完敗だった)

 それでも何度も垣原は「もう一丁!」と立ち向かっていく。1人の男の「生き様」がそこにはあった。結局、試合は10分25秒で互いに申し合わせて終了。勝敗はつかないが、藤原が10度タップを奪ったのに対し、垣原はゼロだった。「化け物みたいに強かった」と振り返ったように手も足も出なかったと言っていいだろう。「Uの忘れ物であるスパーリングができたことは感激しました」という垣原。「今はアドレナリンが出ていますが、明日になったら歩けないでしょうね」と苦笑した。

 

 3日後に検査を控える垣原だが、対戦した藤原からは「カッキー、元気じゃねぇか。オマエは治る!」とお墨付きをもらった。カッキー応援隊の山崎一夫氏が「あの痛みに耐えられるのであれば、どんな痛みにも耐えられる!」とエールを送れば、UWF時代の“父”である前田日明氏からは「今日見てみたらピンピンしている。去年死にそうだったのが何だったのか。頭の一つでも殴ってやろうかと思った」と冗談交じりの激励を受けた。

 

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(写真:垣原の長女・綾乃さん<前列中央>が所属するアイドルグループ『バクステ外神田一丁目』がライブパフォーマンスを披露した)

 試合後のリング上には関係者を集めて、垣原は「こんな最高の仲間がいます。病気なんかに負けるわけないです!」と高らかに宣言した。そして、この場にはいない仲間の1人にエールを送った。それは頚髄損傷および変形性頚椎症で、現在マットから離れている高山善廣である。高山は垣原を支援する活動を精力的に行ってくれたUの同士。「彼は帝王です。僕だってリングに戻ることができた。絶対大丈夫だから!」と叫んだ。

 

「カッキーライドはこれからも夢と希望を乗せて走っていきます。これからも応援お願いいたします!」

(写真:観客に向かって感謝の想いを伝える垣原。割れんばかりの声援に感極まる場面も)

(写真:観客に向かって感謝の想いを伝える垣原。割れんばかりの声援に感極まる場面も)

 そう言って締めた垣原のマイクパフォーマンスには、万雷の拍手で迎えられた。ファンの存在が彼を奮い立たせる。「リングで聞く声援は最高ですね。大好物です。病みつきになります」。次戦の予定は決まっていないが、「気持ちの上ではもう一丁どころか、もう何丁もやりたいですね」とリングに上がる意欲は十二分にある。

 

 詩人のサミュエル・ウルマンの『青春』の一節にはこうある。

「青春とは人生のある期間を言うのではなく、心の様相を言うのだ」

 45歳・垣原の“Uの青春”もまだまだこれからだ。

 

(文・写真/杉浦泰介)