名古屋場所で歴代1位となる通算1048勝(1050にまで更新)をあげるとともに、自らが持つ史上最多優勝を39回に塗り替えた横綱・白鵬の夢は「銀座に部屋を持つこと」だ。これは随分前から言っている。

 

 

 現在、相撲部屋は45ある。そのうちの16が両国国技館のある東京都墨田区に集中している。白鵬が所属する宮城野部屋も住所は墨田区だ。次に多いのが江東区の7つ、その次が足立区と江戸川区の2つ。びんつけ油の香りを漂わせ、着流しで歩く相撲取りの姿は下町の風景になくてはならないものだ。

 

 翻って、世界的なブランドショップが競うように出店する銀座に相撲部屋はひとつもない。白鵬の真意はどこにあるのか。

 

 以前、本人からこんな話を聞いたことがある。「銀座は世界中から人が集まる街。外国から観光でやってきた人に、日本の文化である相撲のことをもっともっと知ってもらいたいんです。外国人力士も増えているんだから、外国人の相撲ファンが増えてもいいと思いますね」

 

 そこで提案したいのが「スポーツホスピタリティ」である。スポーツビジネスにおける新たなサービス事業こそ、文化性の高い大相撲にはぴったりではないかと考える。

 

 ではスポーツホスピタリティとは何か。これは観戦者に食事やエンターテインメント、ギフト、あるいは専門家の解説などを提供するサービスで、欧米では既に一般的になっている。

 

 相撲は奥が深い。仮に部屋を訪れた外国人観光客が朝稽古を見ても、力士の名前や技の種類についてはチンプンカンプンだろう。それを親方やベテラン力士が説明し、稽古が終わればちゃんこを皆でつつく。相撲甚句もしんみりと味わう。こうしたサービスについては「見学ツアー」と銘打って行っている部屋もあるが、外国人観光客に特化したものは、まだ少ない。

 

 2020年夏には東京でオリンピック、パラリンピックが開催される。訪日客を満足させる上で「銀座部屋」はおもしろいアイデアだ。ネックは家賃か……。

 

<この原稿は『週刊大衆』2017年8月14日号に掲載されたものです>

 


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